グローブと僕

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グローブと僕

🧤 🧣 🧤 🧣 🧤 🧣 🧤  時は数週間前…。    仕事帰り駅前の立呑屋で一杯呑んでいい気分で、寒い中フワフワしながら通勤路の商店街を歩いていた。  いつも空き店舗になっていた場所に20時過ぎの遅い時間にも関わらず手芸(手編)の作品展をしていた。何か妙に気になって気が付いたらドアを開けていた。  『いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ。』 店番の男性(首から掛かっているネームプレートに〈桂遠(けいとう)〉)が声を掛けてきた。 「ありがとうございます。」 と言いながら、店内をキョロキョロしながら作品のある場所へ行った。  作品を一つ一つ見ていく。セーター、マフラー、レッグウォーマー、グローブ…あっ。  濃紺のグローブから目が離せなくなってその前で立ち止まった。 『あなたはそのグローブに気に入られてしまったんですね。』 と、桂遠さんが嬉しそうな表情で声を掛けてきた。 「気に…?気にと違って?」 僕は顔だけ桂遠さんの方に向けて言った。桂遠さんは頷きながら、 『はい。あなたは気にんですヨ。不思議なことにここにある作品は、人を選ぶんです。』 ニッコリ笑いながら、僕に不思議なことを伝えた。 「そんなアホな…。」 自分でも分かるくらいマヌケな顔で言った。 『信じられないのはよく分かります。作品に気に入られた方は、最初皆さんそう仰られます。』 桂遠さんは、頷きながら濃紺のグローブを手に取りながら僕に言った。 『どうぞ!騙されたと思ってお使い下さい。きっとあなたにステキなことが…このグローブがステキなことをもたらしてくれますヨ!さぁ、両手を差し出して下さい!』 と言われて、言われるがままその動作をすると、手に持っていたグローブを握らされた。 「えっ?」 『使って下さいネ。』 「えっ??えっと、お支払いは…?」 顔を横に振りながら桂遠さんは言った。 『グローブがあなたを気に入ったんです。選んだんです。だからお代はいりませんヨ。』 「あ、ありがとうございます…。」 『大事にしてやって下さいネ。』 「は、はい。大事に使います。」 『では、ドアまでお見送りしますネ。』 「は、はい…。」  僕、桂遠さんの順で出口へ向かう。    店先に着くと、桂遠さんが後ろからドアを開けて僕へ『さぁ、どうぞ。』と言って、店から出るように促す。促された僕は、そのまま店の外へ出て2~3歩み出し、振り返る。桂遠さんがニッコリ笑い、お辞儀をする。 『お越し頂き、ありがとうございました。お気を付けてお帰り下さいネ…。』 僕もお辞儀をして桂遠さんに伝える。 「騙されたと思って、大事に使います!ありがとうございました!」 そして、グローブを両手にはめて手を振る。 『大事にしてあげて下さいネ。』 桂遠さんは大きく手を振って店内に戻っていった。僕は、両手にグローブをはめたままなんでかは分からへんけど両手を大きく振って元気よく自分の住んでいるアパート目指して帰った。  翌日、仕事が終わって、いつも通り通勤路の商店街を歩いてると、昨日ふらっと寄った手芸(手編)の作品展をしていた空き店舗の前を通ると元の空き店舗に戻っていた。昨日あったことは夢だったのか?と思うくらい何の跡形もなかった。でも手にはめているグローブを見れば夢とは違う。  このグローブ、不思議なくらい自分の手に馴染んでとても暖かくて、とにかく気に入った。昨日言われるがまま受け取って本当に良かった!  あの日の翌日から外に出る時は必ずグローブをつけた。ないと困るくらい重宝して今シーズンの立派な相棒となっていた。  桂遠さんが言っていたーーこのグローブがステキなことをもたらしてくれますヨーーこの会話を僕はすっかり忘れていた。 🧤 🧣 🧤 🧣 🧤 🧣 🧤
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