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ギアスの涙、とは。
中世の頃、とあるイギリスの王妃が愛用していたというブレスレットのことである。正確には、そこに嵌っている大粒のサファイアのことを指している。まるで人魚の涙のごとく美しいことから、職人の名前を取ってギアスの涙と名付けられたのだとかなんとか。
占部氏が二十年ほど前に、大金を叩いて海外から取り寄せたのだという。ちなみに彼が住んでいる屋敷も、中世ヨーロッパのお城のような巨大な洋館であったりする。向こうで建っていた古城をわざわざこちらに移築したらしいのだが――一体どれだけお金がかかったのやら。ヘタしたら、宝石よりも屋敷の方が価値ある代物かもしれない。流石の怪盗も、屋敷まるごと盗むなんてことは不可能だろうが。
「宝石を守るには、万全の警備をしないと駄目ッスよね」
頭をぽりぽりと掻きながら、まだ年若い部下は言う。
「怪盗イーグルの手際は占部サンもよく知ってて超びびってるッス。なんで、とりあえずもっと頑丈な巨大金庫を取り寄せて、中で保管しましょうってことになりました。今金庫をお屋敷に増設してるッス。なんといってもその……今の保管庫、老朽化でボロボロになってたんで。あれ、センサーは作動するかもしれないけど普通に天井に穴開けられそうだったし」
「あー……ボロい屋敷だもんな、ここ」
肝心の保管庫がなんと木造だった。でもって耐震構造もへったくれもないボロ小屋だったのである。何でそんな部屋に保管していたんだ、と思ったら他にも屋敷にお宝がありすぎて他に保管場所がなかったからというオチらしい。でもって、冷たい地下倉庫なんかに保管したら好きな時に眺めて楽しめないじゃないか!なんてことを占部氏には言われていた。それでお宝を危険にさらしていては意味などないと思うのだが。
「センサーばりばりにつけてても、さくっと壁に穴あけて盗まれて逃げられたんじゃ意味ないんだよなあ。……怪盗イーグル、クッソ逃げ足速ぇし」
「ですよねえ」
橋本と梶原は、仲良く遠い目をした。前回、怪盗イーグルは自分達の前に姿を現している。その時、目の前に出現されて走って逃げられたのは苦い思い出だ。現役の警察官十数名が追い付けずに撒かれてしまった。――まあ、途中で変装して警官軍団の中に紛れた可能性もあるのだろうが。
「ところで橋本警部、俺はすごく疑問に思ってたんですけどね」
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