怪盗イーグルは見逃さない

3/5
前へ
/5ページ
次へ
 えっちらおっちらと作業員たちが屋敷の廊下を通り過ぎていくのを眺めながら、梶原が口を開いた。 「怪盗って、なんで予告状なんて出すんだと思います?自分でハードル上げてるだけじゃないっすかね」 「ハードルを上げてる?」 「だってそうじゃないですか。そんなことしないでこっそり盗みに来れば、警察の軍団にお出迎えされる心配もないし。それこそ、あの老朽化したボロ小屋からさっさと盗んじゃえばよかったのになーって。何でですかねえ」  それは、常々橋本も不思議に思っていたことだった。  最初は単純に愉快犯で目立ちたがりだから、とでも思っていたのだが――今のご時世SNSもあるし、目立ちたいだけなら他に手段などいくらでもありそうなものである。わざわざ予告状なんかを出して、こっちの警戒レベルを上げさせる必要もない。  そして今回の場合は、難易度の低そうな木造の倉庫から、ガチガチの鉄筋コンクリートの専用倉庫&金庫を増設する猶予を与えてしまっている。ロックは三重にかかっているし、当日は常に三人以上の警官に見張らせるつもりでいる。この状況で、一体どうやって盗みに入るというのかさっぱりわからない。 「目立ちたい、以外に何か理由があるのかもしれんということか?」  橋本が告げると、俺はそう思うんですけどねえ、と梶原は首を傾げた。 「一つ考えられるのは……怪盗イーグルが変装の名人だってことッス。大量の警官が押し寄せたら、ぱっと変装して警官の中に紛れて逃げられるじゃないですか。だから逆に都合が良い、と。前に何度かその手で逃げられてるでしょ」 「確かに」 「だから、当日もあんまり多人数で押し寄せるのはやめた方がいいんじゃないかなとは思ってるんですけどねえ」 「梶原にしては冴えてるじゃないか、偉いぞ」 「俺にしてはってナニ!?先輩ひどい!!」  ぶーぶーと頬を膨らませる梶原は、とうに成人しているとは思えない幼さである。まあ実際、橋本とは親子ほども年が離れているわけだが。おーよしよし、と梶原の頭を撫でながら言う。 「……そうだな、確かに“どうして予告状を送ってくるのか?”についてきちんと考えたことがなかったな。しかも今回は、予告された日付が半年も先だったわけだ。こっちが丁寧に準備するには充分すぎるほどの時間だな」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加