怪盗イーグルは見逃さない

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 ふむ、と橋本は顎に手を当てて考える。気分はシャーロック・ホームズ――いや、自分は警察官だからレストレード警部の方だろうか。 「一つ考えられるのは、陽動作戦の線か」 「陽動?」 「つまり、この日に盗みますよ盗みますよ盗みますよーって目を向けさせておいて、実は別の日に別の方法で盗んじまうってことだな。警備がガチガチになってる当日に何も盗む必要はないわけだ。その前日、あるいは後日の方が占部氏も警察も気が緩んでいるだろうからそこを狙う、とか」  橋本の言葉に、梶原は困惑した表情を浮かべた。 「なんかそれ、怪盗名乗ってるわりにコスいっすね」 「いや、そもそも犯罪者だからな?予告状通りの日付に盗まなくちゃいけないなんてルールはないだろ」 「そりゃそうっすけど」  梶原が、一体何を引っかかっているのかは想像がつく。  今まで怪盗イーグルは、一度たりとも予告状の宣言を破ったことがない。ちゃんと当日に物を盗んでいく。というか、盗んだアピールをわざわざ向こうからしてくるのだ。当日、気が付いたら宝物の入っていたはずのケースに“お宝は頂戴しました”というメッセージカードが入っていたりとか。あるいはいつのまにやら偽物と入れ替えられて、本人が警官隊の前に本物を持って赤スーツマント姿で現れたりとか。  本人がこれでもかというほどカッコつけて、予告通りに盗みましたよというパフォーマンスを決めてくるのである。今までここまで鮮やかに盗みを決めていた相手、そして自己顕示欲もプライドも高いであろう相手が、今回に限って予告を破って来るなんてことがあるのだろうか? 「今まで怪盗イーグルは一度も予告を破ったことがないんスよ?流石に陽動ってことはないと思うけどなあ」  まあ、と梶原は肩を竦めて言った。 「一応警戒だけはしておきますか。前日や後日も、怪盗イーグルが現れるまで警戒を怠らないってことで」 「おう、それがいいな」 「すみません、梶原さーん。ちょっと倉庫の設計のことでご相談したいことが!こっち来てくれますかー?」 「あ、はいはい」  そのタイミングで、作業員の一人が話しかけてきた。梶原は彼に連れられて、倉庫(予定)の場所へ行ってしまう。  一人残された橋本は、うーむ、とカッコつけポーズのまま考え続けたのだった。
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