ダンディズム 〜こぶたのチャーコ〜

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「なあチャーコ、ヌコリンはどした?」 「プギ?」  1月下旬のその日、ケイがそう口にしたのが始まりだった。 「いや、土曜日の午後まで俺たち普通にラインしてたよな? その日の夕方からずっと既読が付かないからさ」  出張の多いケイは、留守中に飼い仔豚のチャーコが誰かにメイワクをかけないよう、見張り要員のグループラインを設けている。 「俺、これからまた出張だろ? チャーコの見張り強化を頼みたいんだが」  グループはお目付け役として友猫(ゆうじん)のヌコリン&一応(?)人間の大人であるホマレ―ヌ清水画伯(近隣住民)、そしてケイ、チャーコというメンツだ。 「アタチも気になってたプギ。だからお庭のヌコリン小屋も見に行ったけど空っぽ。(チョク)ラインも何度かブッコんでゆ」 「んで返事は?」 「なっしんぐプギ。コッチも既読つかないの」 「だろ? 俺の直メもだ。もう火曜じゃねえか。ナニやってんだアイツ」  とはいえ、こういう事はこれまでにも何度かあった。 『スマホがぶっ壊れてたニャリ』 とか 『よんどころない事情ニャ』 とか 『電波にゃどという文明から己を遠ざけ、心身ともに見つめ(にゃお)す修行の旅に……』とか、etc。  日頃からヌコリンは気まぐれで己に厳しい、孤高の黒ネコなのだ。 「まさか面倒な任務か……?」 「ん? なにケイ、妊婦?」 「なんでもねーよ」  ケイとヌコリンが陰の国家保安組織【Bonsoir(ボンソワール)】のシークレットエージェントとして暗躍している事はチャーコにも内緒の事実である。  ちなみにケイのコードネームは【愉怪な王さま】。  ヌコリンは【(ΦωΦ)(ΦωΦ)(ダブルニャー)セブン】。 「とにかく、俺やヌコリンが見張ってないからってハシャギ倒すんじゃねーぞ。いいな」 「わかってるプギー。あたち、よい仔にしてゆー♪」 「ものごっつ怪しいが……。なんかヤッたらお仕置きはトイレ掃除じゃ済まねぇからな」 「プギっ!?」  そんな恐ろしい言葉を残してケイは出張に出かけてしまった。
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