ただ、君を想う

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ーーーガチャ…キィ…バタン…ーーー (えっ?) 深夜1時半、洗面所で歯磨きをしていた私は、玄関の開閉音が聞こえて驚いた。 一人暮らしのこの家の合鍵を持つ人物はいない。 (まさか…ご、強盗…?) 歯ブラシを片手に、思わず歯磨き粉ごと唾液をごくりと飲み込む。 薬品っぽいミントの味が喉の奥に広がり、なんとも言えない不快感だ。 口の右端に付いた泡をタオルで拭き取ると、洗面所の引き戸の前に立つ。 引き戸の向こうからは特段音は聞こえない。 そっと耳を引き戸に張り付けて、様子を伺ってみたが、完全に無音だ。 (私が出てくるのを待ち構えてるのかしら…) だとしたらかなりヤバい。 スマホは居室のテーブルに置いてきてしまったし、通報するにもとにかく洗面所から出るしか選択肢はない。 でも洗面所から出た途端、侵入者と鉢合わせてバッドエンドではないのか…。 洗面所をぐるりと見渡してみる。 侵入者から身を守れそうなものは無さそうだ。 強いて言えば眉を剃る剃刀くらいだが、手や肌を傷つけないようにプラスチックで加工がされてあるもので、殺傷能力はかなり低そうだ。 パッケージに書いてある、『お肌を傷つけない安全設計!』というキャッチコピーが恨めしい。 買う時はこの謳い文句に惹かれたのだが。 やむなし剃刀を右手に構え、左手で引き戸を開けようとするが、無意識に左手が震える。 もしかしたら、強盗じゃなくて性犯罪目的かもしれない。 そう考えたらますます身体が強張った。 ドクン、ドクンと自分の心臓の音が聞こえる。
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