ただ、君を想う

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物音がしないよう細心の注意を払い、 そーーーーっと引き戸を僅かにスライドさせる。 3センチほどの隙間から覗いてみたが、人の影は見られない。 (でも引き戸の真横に居たら見えないもんな…) 鳴り止まない心臓を抑えながら、さらに戸をスライドさせた。 人ひとり通れるほどの隙間まで広げたが、侵入者が飛び出してくることはなかった。 隙間から首だけを出して、居室を見渡してみたが、特に変わった様子はない。 居室はキッチン兼寝室のワンルームなので、特に人が隠れられそうなスペースも無いのだ。 「えぇぇぇ…私の気のせい?」 緊張が解け、思わず独り言がこぼれる。 絶対玄関から音がしたと思ったのだが… 空耳だろうか? 右手に構えた剃刀を洗面所の棚に戻した。 息をフゥッと吐き、ワンルームの中心にこじんまりと置かれている1人用ソファに腰掛ける。 (やっぱ疲れてるのかな…  最近色々あったし、仕事も忙しいしなぁ…) ふと時計をみると、針はまもなく午前2時を指そうとしていた。 誰も居ないのに30分も洗面所でヤキモキしていた自分はなんて滑稽なんだろう。思わず1人でにやけてしまう。 (ほんとバカみたい。  早く寝ないと…  明日も朝から出張なのに…) 疲れたなぁ…ポツリと呟き、少し目を閉じた。
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