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「悪いな。こんな風貌だから解らないとは思うが、俺は国籍も住んでる期間もずっとこっちだが、あんちゃんの言う敵国の生まれなんだ」
なるほど、俺はこの古道具屋に殺されるだけの理由は有った。それで酷く納得してしまった。
「だけどな。あんちゃんの家族が無事だったら殺そうとは思わなかったんだぞ。そこまで人でなしじゃない。理由が有って殺してたあんちゃんと同じ様に」
「解ったよ。覚悟はできた。これは仕方が無いな」
撃たれた腹からはどす黒い血が次々と流れている。これは救からない。戦場で瀕死の人を見たから直ぐに解った。
「命ってなんだろうな。こんな些細な事で落としてしまうもんなのかな」
またしても問いかけている印象ではなかった。どうやら自問自答しているみたいだ。
「そんなのは俺にも解らない。だけど、命ってのは」
急に喋ることが辛くなった。気付いたら痛みも無くなっている。ずっと古道具屋を眺めていたが、それも霞んでしまった。
一度真っ暗になった視界が晴れる。そこは地獄なのかもしれない。そんなものが有るのならだけど。
眺めて見れるのはただ白い空間だけ。なんとか自分だけが有るのは解っていた。それでも確実に死んでいる。それだけがリアルだった。
「こんなに直ぐに会わないつもりで居たのに」
待っていた声が聞こえた気がして辺りを探した。すると、急に懐かしい瓦礫になってない故郷が広がって、そこには子供を連れた嫁の姿があった。
「お父さん」
ちょっと恐がりながらの子の呟きに俺はこくりと頷く。すると途端に嬉しそうな顔になって、俺の方に駆け寄った。
俺はそんな我が子を抱きしめた。小さいけど確かな命がそこに有る。そして彼女の事も片手を広げて呼ぶ。
もちろん拒むことも無いで彼女も走り寄って三人で愛を掴まえていた。
「命はこんなに掛け替えの無いのか」
ただひたすらに今を愛おしんでいた。
「当り前じゃない。本当は有るときに会いたかった」
「そうだな。俺たちにはもう無いんだから」
今の状況が永遠に続く保証なんてない。もし命があったなら続くだろうに。
「命って守って守られて、取らないで取られない様にするんだよ」
「命の意味を俺は間違っていたんだろうな」
「だけど、守ろうと頑張ったのは解ってるよ」
彼女はそう笑っていた。なんだかそれで良いような気がする。
「次が有ったのならその時はきちんと守るから」
僅かなるの今が取り合えずならば有るから。
おわり
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