命ってのはな

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「そうか、解ったよ。隣町に避難している人が居るらしい。あんちゃんの家族が見付かるを祈ってるよ」  古道具屋は最後に置き土産残して俺のもとを離れた。  嫁が子供を連れて逃げている事は十分に考えられる。光明が俺のところにも残っていた。なんだか嬉しくなって、俺は隣町まで急いだ。  避難民が集まっているので、隣町は賑やか。俺の故郷とは違う。そして戦場の煩いのとも全然違っていた。これが故郷にも有るべき風景なんだろう。  町を眺めていると、こちらは空襲は少なかったみたいで、建物は残っている。なにより人々が幸せそうに居て、子供たちもそこらへんで遊んでいる。平和な光景だ。  俺たちは守れたんだろうか。酷い人殺しになったけれど、こんな笑顔を守れたのなら生きる価値も有るだろう。 「ちょっと待ってよー」  町を歩いていると本当に子供たちが楽しそうにしている。そんな姿を見ていると、俺の前で転んだ子供が居た。  子供の扱いには慣れてないが、取り合えずその子供を起こしてみた。振り返った子供が俺の顔を見る。一瞬怖がった様に思えたが、直ぐに笑顔になって走って母親のところに戻る。  その時に俺は泣いていた。  あの子は恐らく俺の子供と同じくらいだろう。なんだか、嫁と子供と重なって思えてしまった。 「人を探してるんです」  涙を拭うと俺は嫁たちの事を聞いて回る。この町には周辺から避難した人が多くて誰かなんて把握されてない。 「あー、隣町から避難した人にそんな名前の人が居たな。この先の学校に居るんじゃないか?」  十数人に聞いたらやっとそれらしい情報が有った。近隣の学校は避難所になっている。そこに彼女たちが居るのかもしれないと思うと、気が付かないうちに俺は走っていた。  避難所にたどり着くと、そこには多くの人が居た。もう会えるのかもしれない。これからまた厳しい生活が待っているとしても、彼女たちが居たのなら苦にはならない。俺は嫁を探した。 「君! 帰ったのか?」  探し訪ねていると俺の姿を見て声をかける人間が居る。振り返るとそれは彼女の父親だった。その姿を見るともう嫁に会えると思ってまた涙を流しそうになっていた。 「お義父さん。無事でよかったです」  父親に駆け寄るとあちらも喜ばしい顔をしている。 「それは君のほうこそだよ」 「町を見た時はみんなダメかと思いましたから」  それは故郷の町の事。本当にあの町では救かる見込みはなかったから。 「空襲の予想が有って、どうにかこちらに逃げられたんだ。運が良かったよ」  本当に運が良い。あの町でも亡くなった人は多かっただろうに。  だけど、俺は安心していた。これで嫁たちも無事なんだろう。 「それで、彼女たちはどこにいるんですか? 子供にも会いたいんです」  それまで笑っていた父親の顔が曇った。俺はその表情を理解できなかった。
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