足湯の猫は雷のヒゲ

　亡くなった人に会える温泉宿が箱根にあるという。会社の先輩が面白おかしく話している与太話を鵜呑みにしたわけではないが、もしそんなことが出来るなら会いたい人がいた。仕事や人間関係に疲れていることもあり、温泉に浸かりながらその人のことを思い出すのもいいのかもしれない。実桜はその思いつきがやけに魅力的に思えた。口コミやSNSで調べると、亡くなった父に会えたとか、事故死した恋人に会えた等といういわゆる心霊体験談が見つかった。はっきりとは温泉宿の名前は書かれてなかったが、特徴と地域で検索してみると想望荘という温泉宿が見つかった。何かヒントがないかと女将のコラムに目を通すと、それらしい記述が見つかった。それによると、この温泉宿には昔から、『ある条件が重なった時、亡くなった人が会いに来てくれる』という言い伝えがあるらしい。それを目当てにして来る宿泊客も少なくないという。ただし、条件がそろったとしても願いが叶うかどうかは相手次第だとある。それなら、かえって気楽というものだ。