足湯の猫は雷のヒゲ

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 実桜は思わずそう返していた。 「私、映画を観ている間はものが食べられないんだよね」 「分かります! ポップコーンを買っても、ほとんど食べないうちに映画が終わってます」 「そうそう。せいぜい飲み物くらいだよね」  二人は昔からの知り合いみたいだった。 「ギリギリセーフだね」  発券したチケットを見た萌がにやりと笑った。 「同じ映画だね」 「気が合いますね」 「映画の後、ご飯食べない?」  萌は遠慮がちに言ったが、私も同じことを考えていた。 「ぜひ!」 「じゃあ、映画を見終わったらここの出口で!」  臨場感のある前の席が好きな萌と、後ろでゆっくり観たい実桜は、映画の楽しみ方は違った。それでも、同じ映画を観て余韻に浸りながら食べるご飯は格別に美味しかった。実桜と萌は初めこそ映画好きという共通点だけだったが、一緒に映画を観たり食事をしながら話をするうちに、個人的な話をする仲になった。上映前の予告から次に観る映画を決めることも多く、いつもの様にばらばらの席で映画を観た後、二人はホールの映画ポスターの前で合流した。
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