足湯の猫は雷のヒゲ

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「気になった映画があるんだけど、萌はヒューマンドラマはあんまりなんだっけ?」 「人気の若手俳優が出てる映画ね。評判は良いらしいけど」  いつもはっきりものを言う萌には珍しく、歯切れが悪かった。  家族の確執と再生の物語で、女性を中心に人気が出ていた。この日も、映画のパンフレットを抱えた十代と思しき女性達が楽しげに上映を待っていた。 「興味があったらでいいよ。一人で観に行く予定だったから。ほら、感動ものって泣いちゃうでしょ」  萌が断りやすく言ったつもりだった。 「私も恥ずかしいくらい泣いちゃうかも。行く時は声かけるね」 「来週の金曜日の夜に観に行くつもりだから」  萌から一緒に観に行きたいと連絡があったのは、前日の夜だった。いつもは、別々の席で観るのだが、萌は出来れば今回は並んで観たいと言う。 「良かった。私の隣、まだ空いてたよ」  萌は恋愛映画は観ても、家族をテーマにした映画は避けている節があった。なのにどうして今回は観たいと言ったのか、実桜はその時は大して深く考えなかった。  上映前、並んで席につく。 「私、妹と一緒に住んでるんだ」と萌がぽつりと言った。 「そうなんだ。仲良いんだね」
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