足湯の猫は雷のヒゲ

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 ある日、姉は家族に見切りをつけ家を出た。途端にこの家は家族としての体をなさず歪んでいく。父親はタガが外れた様に、権力者に取り入る為の付き合いで家に帰らないことが増えた。母親はそんな父親に当てつけるかの様にボランティア活動の幅を広げ、地方にも出かける様になった。善意の活動は家にいたくない母親にとっての逃げ場所であった。弟は女友達の家に入り浸り、ほとんど家に寄り付かなくなった。姉が一人暮らしを初めて数ヶ月後、久々に実家に行った時、荒れ果てた家を目にし愕然とする。この家は自分で持っていたのだと思い込み、「長女」としての役割を全うしようと奮闘する。奮闘虚しく、好き勝手にしていた三人は長女の正論など聞く耳は持たない。 『私は、皆んなのまとめ役でしょ! 私がいなかったから皆んなばらばらになったんじゃない。私は長女の役割をしてるだけよ!』  三人は顔を見合わせ、笑い出す。 『長女の役割って何? そんなの求めてないけど』  弟は呆れ顔でため息をつく。 『大人なんだからそれぞれが好きなことをしましょ』  母親が言った。 『いつまでも甘えてないで一人でしっかり生きていきなさい』
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