メロスの妹

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 私には兄が一人いる。  兄は正義感が強く、感情的で、自分が正しいと思ったことには(ちょ)(とつ)(もう)(しん)、突き進んでいく行動力があった。  小学生の頃、そんな兄は学校では有名人で、私は彼の妹というだけで【メロスの妹】と呼ばれていた。そう、太宰治が書いたあの、『走れメロス』の主人公、メロスの妹だと()()されていたのだ。  しかし私は、何に対しても()()ぐな兄のことが大好きだった。この時までは。  小学校を卒業し、中学に入っても、私のあだ名は【メロスの妹】のままだった。そのレッテルは段々と(うっ)(とう)しく感じられ、私は少しずつ、兄と距離を取るようになっていった。 「ユキ、俺に何か問題でもあるのか?」 「うるさいなぁ。お兄ちゃんのせいで、私、何て呼ばれてるか知ってる? 『メロスの妹』だよ?」  距離を取るようになった私に、兄は困惑していたようだった。しばしば私に対して『俺に何かあるのか?』と聞いてくる。  私はその質問すらも鬱陶しいと感じていた。  中学を卒業する頃には、もう兄の質問に答えることすらなくなっていった。
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