3人が本棚に入れています
本棚に追加
「君は幾つになった?」
「今年43歳です」
21歳から刑務所に2年間、その後の20年間を無駄にさせてしまった。晃と四つしか変わらない牧田の青春を奪ってしまった。
「昨夜、家内が君の後ろ姿を見ながら言った。君が悪い人なら良かったのにねと。私もそう思っていた。もっと早く君を受け入れて上げれば良かった。ねえ牧田君、もう晃への償いは充分過ぎるぐらい返していただいた。これからは君自身のために人生を楽しんで欲しい。この通りだ」
隆敏が畳に頭を付けた。
「困ります、困ります」
牧田は隆敏の肩を抱いて頭を起こした。
「橘さん、これはもう決めたことなんです。隙が出来ると私はまた過ちを犯します。知らず知らずのうちに、他人に迷惑を掛けてしまいます。私に続けさせてください」
牧田の決意は変わらない。
「どうしても私達の願いを聞き入れてくれないのならお願いがある。私達は四国遍路を歩いて回りたい。君に付き合ってもらえないだろうか。結願をしたら、この願いを聞き入れて欲しい」
牧田は考えた。それはその時が必ず来ると言うことである。結願した後は何を目的に生きていけばいいのか想像が付かなかった。しかし命を奪った息子の親の願い。聞き入れるのが正道と受け入れた。
そしてその年のゴールデンウイークの五日間を利用して徳島に渡った。旅費経費は全て橘が負担した。牧田に預貯金は一銭もない。その代わり、身体の弱い雅子を介助する役目を請け負った。宿は遍路小屋や善根宿など無料に近い宿に宿泊することを牧田の薦めで決めた。徳島の旅館で一泊し翌日朝出発した。隆敏61歳、雅子還暦、牧田43歳、初めてのお遍路である。一番札所霊山寺で旅の安全を祈願した。極楽寺までは雅子の遅い足取りでも20分ほどで到着した。
最初のコメントを投稿しよう!