輪廻Ⅱ『結願』

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「ありがとうございます。結願したら便りを出します」  出発した。 「あんたどうしたの、顔色が悪いんじゃわ」 「あの人がお大師さんに見えた。若い頃の空海さんに見えた」  主は同行二人の背に手を合わせた。 「雨が降らなけりゃええが」  夫人が空を見上げた。丸刈りになって敏感になった地肌に雨粒が落ちた。牧田は空を見上げた。黒い雲が山に掛かってきた。 「橘さん、合羽を着ましょう」  隆敏に合羽を着させた。 「君は?」 「私は雨降りも合羽など着ずに仕事をしています。合羽を着ると蒸れて汗を掻くんです」  雨が激しくなってきた。身体が冷えて来た。熱が出ているのを感じている。車椅子を押す力が萎えて来た。 「牧田君、牧田君」 「はい」  返事をするのが精一杯だった。牧田の意識が薄れてきた。 『神様、弘法大師様、どうか私のために不幸になったこの方を結願させてください』  牧田の手が車椅子のハンドルから離れた。下り坂である。車椅子が前に進んだ。 「おっとっとっと、今ブレーキ掛けますからね」  隆敏の前に変な男が現れた。 「私より倒れている彼を看てください」 「はいはい、順番順番」  男はブレーキを掛けた。 「癪」  天に向かって叫んだ。稲妻と一緒に癪が降下してきた。  
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