輪廻Ⅱ『結願』

9/11
前へ
/11ページ
次へ
「傘代わりに上で羽を広げてくれ」  癪が巨大化して羽を広げた。隆敏は雨が上がったと勘違いしている。 「これはひどい熱だ」  牧田の額に手を当てて言った。 「ねえ、聞こえる」  牧田は頷いた。 「熱は冷ましてあげるから。その前に寿命を見るからね、天命なら諦めてもらうよ」  男は右手人差し指の腹を牧田の天中に当てた。そして山根までゆっくりと滑らせる。 「あなたは常人ではない、選ばれた人だ」  そう言って掌を額に当てた。牧田の熱が掌に吸い取られる。真っ赤になった掌を天に向けて息を吹きかけた。熱が散らばって消えた。牧田は意識を取り戻した。すぐに隆敏の元に走る。 「大丈夫でしたか、すいませんでした」 「私より君は大丈夫か?うなされていたが」 「はいそれが不思議と治りました」  牧田は焦げ茶色のハンチングを被った男に気付いた。 「あの方は?」 「私達を助けてくれた方です」  牧田が近付いた。 「ありがとうございます。お接待の方でしょうか?」 「まあそんなとこだけど、こういう者です」  男は名詞を差し出した。 「金原武さん、仙人?」 「そうなんですよ。あなたの祈りが私に通じました」 「祈りですか?」 「そうです、あの方の結願を祈られたでしょ?まさか忘れたとは言わせないですよ」  金原は笑った。  
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加