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「要はヤケクソになっている訳だな」
「なってないよセンセ。下手すりゃおっ死ぬのは確かだけど、ぶっちゃけ別にそんなの初めてでもないんで」
受話器の向こう側の遥か水辺線の向こうにおわす恩師の姿がありありと想像出来る。
多分いつも通りバカ真面目にこちらの一語一句を聞くたび頭痛やら目眩やらに襲われ、嘆息し眉間にシワを寄せ歯噛みしている事だろう。
本人は決まって否定するが、まるで放蕩息子の不祥事を耳に入れては決まって各所への謝罪やら賠償やらの対応に奔走する父親のように。
──誰が放蕩息子だ。
「こちらこそ父親呼ばわりされる筋合いは無い……と言いたいが、お前の保護者であるのは確かだぞ。出来うる限り力になってやるつもりだが限度がある」
「そりゃあ弁えていますよセンセ。因みに俺、どこのどんな場所でも成人男性として見られるようになって久しいからね。単なる見かけの話ってんでもないぜ。バックに居てくれんのは勿論嬉しいけど、今ん所は保護してもらわないでも平気なんで悪しからず」
とは言えどんな形であれ方向性であれ子を想わない親は存在せず、はたまたどんな意図であれ度合いであれそいつに煩わされるのは避け難い宿命らしい。
いやしつこいようだがあくまで例えだ。
とにかく要点だけ抑えてりゃ良いとなるべく早くに気付くべきだという話だが、それもまた大抵なかなかに難儀だというのも、宿命。
無形かつ胡散臭い事柄をやたらとあげつらうのも好かないしその逆も然りなので、これらは全部胸中の独り言だ。
実の父子であってもこんな話で盛り上がる事なんざないだろうが。
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