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久方ぶりの休日、双子の娘達にせがまれて散歩に出掛けた。
頭から爪先まで瓜二つの彼女らは朝から──むしろ久方振りに顔を突き合わせた昨日の晩から──元気一杯に心から楽しそうに手を繋いできた。
メグとマギー。
マギーとメグ。
先月6歳になったばかりである。
あれを見てこれを聞いてと忙しなく話し掛けられ、大はしゃぎで足にしがみつかれ、普段のそれとは全く違う喧騒に慣れてきた頃。
ふと道端の何とか言う赤い花を咲かせた植木が、次いで何故かそこに咲いているとは思えない黒い花が目についた。
娘らと読んだ何とか言う絵本を思い出したが、現実世界で花にペンキを塗って色を変えるなどまず有り得ないだろう。
従ってそれは花ではない。
普段よく見る時限爆弾だの敵兵だのを見た時のような危機感を告げる鋭い悪寒こそなかったが、嫌な予感がしてそろそろと植木に近付いてみた。
足にしがみついたまま着いて来た娘らが競うように口々に言う。
「パパ、にゃんこ」
「パパ、にゃんこ」
その通り、木の上には猫がいた。
それも手のひらにすっぽり収まりそうな、小さな仔猫だ。
「ママやパパは?」
「ママやパパは?」
娘らがまたも競うように訊きたい事を代わりに訊いてくれたが、返事が返ってくるとは期待出来ない。
猫はやはり沈黙したまま、赤い花の間に縮こまってこちらをじっと見つめていた。
助けを求めているのか迷惑がっているのか判断しかねる瞳を見上げていると、またも娘らが代わりに唱えてくれる。
「どうしよう?」
「どうしよう?」
──どうしよう。
腕を伸ばせば難なく捕まえられるだろうが、問題はそれからである。
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