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周囲を見回しても親や飼い主らしき姿は見当たらず、かと言って家に連れて帰って良いものか。
ひとしきり思案した後、素直に娘らの母親に電話で事の経緯を報告した。
そもそも滅多に家にいない自分に何かを決める権利はない。
「あら、じゃあ連れて帰っていらっしゃい」
あっさり返ってきた一言に面食らったが、何も言わずそれに従った。
また矢継ぎ早に仔猫の扱い方を指導され、その通りに慎重に仔猫を木の上から救い出した。
思ったより大人しく手中に収まった仔猫に安堵と心配を覚え、早々に帰宅しようと娘らに告げる。
彼女らは我が家に仔猫を迎えるらしいと聞いてますますはしゃぎ、帰り道でまた忙しなく喋り続けた。
「ママは昔にゃんこ飼ってたのよ」
「だからおうちで飼えるかも」
「お名前は何にする?」
「パパが決めて!」
帰宅してからも忙しなくあれこれ買い出しに再び外に飛び出したり、詳しく仔猫の扱い方を教えこまれたり、名前を考えたり。
普段の喧騒よりも遥かに平和的ではあるが、あらかたやるべき事を終えた後は普段と変わらないかそれ以上に疲れ果てていた。
同じく疲れ果てたらしく買ったばかりの寝床で丸くなって眠るまだ名前のない黒い花と、それを慈しむように大はしゃぎをやめて微笑む娘らに目をやる。
「パパ、嬉しそう」
「パパ、嬉しそう」
本当にそう感じているかは自分では解らなかったが、素直な彼女らがそう言うのならきっとそうなのだろう。
次の帰宅までにきっと名前を決めると約束した。
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