ごくありふれたものの話

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異常はごく唐突に、同時にいかにも何の害も無いという素振りでやって来る。 事実、それ(異常)に近付きさえしなければ、害を被らずにいられる。 近付きさえしなければ、更に目を背けてさえいれば。 無論近付かない事も目を背ける事も、決して間違った行為ではない。 自身を守る事が間違いであるはずがない。 それ(異常)はただただ貪欲に、それがごく真っ当な真実であると言わんばかりに、少しずつ、確かに世界の全てを飲み込んで行った。 そうしていつしか誰にとっても取るに足らない通常となる。 それは彼にとっても同じで、更にそこにどういう背景や経緯があるかなど知る由もなかった。 無論誰かが懇切丁寧に彼に教授する事も。 しかし日を追う毎に彼にもそれ(異常)は訪れ、そうと気付かなくとも容赦ない変化をもたらして行った。 飲食店などで貰える事があった残飯や古くなった売れ残りが段々と少なくなり、ついには全く貰えなくなった。 すれ違いざまに邪魔だと罵倒されたり子供に足を引っ掛けられて転ばされたりする事もあったのが、彼だと気付くや露骨に避けたり子供を遠ざけたりする者も現れた。 .
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