腎臓と星

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──いつ来ても騒々しいそのくせ寒々しい、訳の分からない街だ。 ある意味名物の1つと言える満員電車を想起させる(よくぞ圧死体が出ないものだ)、ゴチャゴチャと建ち並ぶビルや薄汚い飲食店の間を縫って歩く。 忙しなく行き交う車、または路肩に佇む車の群れを物色し、適当に目に付いた黒いセダンに近付いた。 ──物色するな、見るな、近付くな。 かつて言いつけられた全てを無視する。 必要があろうが無かろうが、そもそも言いつけを守らせようなどと考えない方が良い。 颯爽と助手席のドアノブに手を掛け、当然のように開いたそこへ滑り込む。 殺人やそれに伴う所業に忌避感を抱く事は全くないが、かと言って無意味かつ大仰な殺しは別段望む所ではない。 よって運転席は選ばなかった。 決して運転出来ない訳ではなく、そこに陣取っているであろう人間をつまみ出すか殺すかするのが面倒だという理由である。 無論それには迅速かつ確実な制圧が必要だが、当然それも問題は無い。 本当に面倒な事態になれば殺せば良いのだ。 「ん?黒リン早いね───」 この時もっと思いきり良く鼻面を撃ち飛ばすなりしていれば、あれほど面倒な思いをしなかっただろうか。 ちょっと後悔している。 .
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