彼は未だ此処にいる【Ⅱ】

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あくまで彼自身の生まれは大それたものでは無い、言えば取るに足らないものだった。 少なくとも物心つく前に家族と故郷を焼き払われる謂れ(いわ)も、血混じりの喧騒に振り回されながら飢えに苛まれる謂れも無い。 ──はずだった。 極めつけにはたった15歳で死に追いやられてしまった。 そんな顛末を彼に強いる必要は何処にも無かった──はずなのに。 「でも僕も……」 今回ばかりは【大人】である彼の反論は聞く事は出来ない、とすかさず掌でその口を塞ぐ。 彼が不意に身体に触れられるのを嫌うのは解っていたので、更なる反論の前に離した。 今後どれだけ時間が経とうが"でも”も"だって”も無い。 彼はあのように生きるべきではなかったし、あのように死ぬべきではなかった。 【大人】であっても【子供】であっても。 「今そんな事を言っても仕方ないよね」 またしても【大人】の口振りで言われた。 彼がそれを覚えたのは間違いなく、周囲の自称【大人】共の影響だ。 別に揃いも揃って悪人ばかりという訳では無かったが、少なくとも誰も彼をありのままには扱わなかった。 つまり【子供】のままに。 無論彼自身も誰も望んでそうしたという訳は無いだろうが、間違っても“僕も同じ事をしたのだから”などと口に出してはいけない。 .
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