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あくまで彼自身の生まれは大それたものでは無い、言えば取るに足らないものだった。
少なくとも物心つく前に家族と故郷を焼き払われる謂れも、血混じりの喧騒に振り回されながら飢えに苛まれる謂れも無い。
──はずだった。
極めつけにはたった15歳で死に追いやられてしまった。
そんな顛末を彼に強いる必要は何処にも無かった──はずなのに。
「でも僕も……」
今回ばかりは【大人】である彼の反論は聞く事は出来ない、とすかさず掌でその口を塞ぐ。
彼が不意に身体に触れられるのを嫌うのは解っていたので、更なる反論の前に離した。
今後どれだけ時間が経とうが"でも”も"だって”も無い。
彼はあのように生きるべきではなかったし、あのように死ぬべきではなかった。
【大人】であっても【子供】であっても。
「今そんな事を言っても仕方ないよね」
またしても【大人】の口振りで言われた。
彼がそれを覚えたのは間違いなく、周囲の自称【大人】共の影響だ。
別に揃いも揃って悪人ばかりという訳では無かったが、少なくとも誰も彼をありのままには扱わなかった。
つまり【子供】のままに。
無論彼自身も誰も望んでそうしたという訳は無いだろうが、間違っても“僕も同じ事をしたのだから”などと口に出してはいけない。
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