ごくありふれたものの話

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そのどれにも大して驚きも傷付きもしなかったし、何だったら興味すら無かった。 そもそも自分自身に興味が無かったから。 いつだかに拾った新聞紙の見出しに【不具者を淘汰するべし】と書かれてあるのを読み取ってもなお、何も感じなかった。 感じなかったのか、感じる事が出来なかったのか、それは自分でも定かではない。 次第に見出しのその文句が所々で声高に唱えられるようになった。 ──少しずつ、しかし確かに。 【不具者】の定義は曖昧で、身体の一部が欠けている者をそう(不具者)とするのか、感覚や能力が劣っている者をそう(不具者)とするのか。 はたまたそのどちらをもそう(不具者)とするのか。 疑問を持つ者は大勢いたが、実際に声に出してそれを晴らそうとする者はいなかった。 単純に疑心や恐怖に駆られる者、または興味のない者。 はたまた身内や知人にそれ(不具者)に該当する人間がいる者。 理由は様々だったが、とにかくしばらくは仮初の平和が続いていた。 しかし、それ(異常)は追い風のように背中を押し、血生臭い現実へと誰もを駆り立てた。 いつしか彼が目にしたのは、家畜や罪人やのように追い立てられる人々の姿だった。 無論それを意に介する事はなく、いつも通りの日々を送った。 .
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