ごくありふれたものの話

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彼が【淘汰】の対象で、大体いつどこで何をしているか、誰もが知っていた。 目的を果たすべく現れた者達の激しい剣幕にただ気圧される者もいれば、つまらなそうな視線を突き返すだけの者もいた。 「──聞くけど憲兵さん、彼をどうするの?」 「大して役に立つ奴じゃあないが、だからってそこまで迷惑掛けられてもいないし──」 「──生きてちゃいけないって程じゃないと思うけど」 「どうする?──」 「──どうするって……」 通り道に設置されたベンチで良く彼と顔を合わせる老人がまず彼を見つけた。 事の説明をする間もなく、近くにいた植木職人が仕事道具を詰んだ台車に何とか身を潜ませた。 売れ残りや残飯をこっそり与えていた商店やパン屋や小料理店など、どこに匿うか短い議論が成された。 運ばせようとした荷物を取り落としたのをどやした婦人が姿隠しにとコートを着せ、すれ違い様に肩と罵倒をぶつけた青年が追っ手の存在を知らせに息を切らして来た。 誰も彼もの事を彼は大して知らず、彼らも大して彼の事を知らない。 無論決して親しくもなければ、この先親しくなる事もなかった。 ただ何となくそこに居合わせ、ただするべき事をした。 .
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