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山場を越えた所で遅まきながらちゃんと英国紳士をしようと思っていたのに、もうやだこのオッサン。
そう俺、今更だけど英国出身。
なのでたまに嫌になるが、英国紳士であろうとは常々思っている。
そしてこの直後にこのオッサンも英国紳士だと教えられて、もっと嫌になった。
「風上にも置けねえな」
「うるせえなお互い様だろ。オタクまだ片目塞いでるし普通に腕上がってねえし危ねえじゃん。手滑ったりなんかしたらどうすんの」
久方振りに言葉で殴り合い蹴り合いしつつ(既に超元気だと分かったし一応安心した)、納得と同意をさせろと訴える。
するとジャケットの内ポケットを見ろと言われ、眼鏡ケースらしき眼鏡ケースが良くぞ無事に収まっていた。
それを掛ければ回復してるか否かは分かると。
「見えないけど眼球まだ戻ってなくね?見たくないけど」
「神経辺りは戻ってる」
「分かるんだ」
「分かる」
まあ当人が言うならそうなのか。
そう言えば触るのも他人に掛けさせるなんてのも初めてだとか思いつつ、危なげなく目元に運んでやる。
レンズ越しに目を合わせた瞬間は、思えばようやっと初めて互いに極めて落ち着き払った状態で目を合わせた瞬間でもあった。
それまで信じ難いほど濃厚かつ汚ねえ共存をしていたので、当然と言えば当然か。
更に眼鏡を掛けたオッサンはまた信じ難い事に──
「わ……わあ」
「……何だよ」
「いや、それ、どうした?」
「お前がどうした」
「分からん、けど、なんか助かる」
「……何がだ」
今またキスしたら普通にヘッドバットでもやり返されるんだろうな。
ギリ平常心を保つ事は成功したが、滲み出る何かは止められなかった且つ多少元気を取り戻したらしく、オッサンは久々に衛生兵の顔を浮かべた。
良かったね優しいね。
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