憎悪

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憎悪

目の前に立つイルファスの表情は、憎悪に満ち溢れていた。 その視線は、ブランカを捉え離さない。 「ブランカ…私はお前を許さない!」 ブランカは、フーッと息を吐くとイルファスを見つめ言った。 「イルファス…そんなに私が憎いの?」 努めて冷静な声だ。 「私はお前が嫌いだ。少しばかり綺麗だからと言って、チヤホヤされている。お前の周りには、たくさんの天使が集まる。色目を使って男性を誘惑してるのも気に入らない」 イルファスの言葉に私は眉根を寄せる。 (それは、妬みではないのか?しかも、ブランカが誘惑?いや、それはあり得ない) 「私は、いつも1人だった。誰も私を気にも留めない。誰も私に声を掛けない…」 イルファスは俯き呟いた。 「イルファス…君は寂しかったんだね…」 黙って聞いていたラフィが声を掛ける。 「でも…ブランカは、君が思っているような天使じゃないよ。男性に色目も使ってない」 「うるさい!お前に何が分かる!黙っていても皆が集まってくるような奴に、私の気持ちが分かるか!生まれながらに美しいお前らに…」 イルファスは、目を見開きラフィを睨んだ。 悔しさからなのか、体が小刻みに震えている。 私は彼女に声を掛ける。 「イルファス.…君は何か努力をしたのか?」 「サビィ様…努力とは?」 イルファスが私に視線を向けた。 「他の天使を羨む前に、自分を磨く努力をしたのか…と聞いている」 「サビィ様…努力などで美しくなるなどあり得ません…」 「イルファス…なぜ、決めつける?」 「私は…努力しても美しくなれるわけがありません」 「努力もせずに諦めるのか?」 「努力など…無駄です!私は生まれながらに醜い。変わるわけない…」 イルファスの表情が苦悩で歪む。 「イルファス…私も日々、努力を重ねている」 「サビィ様は完璧です。努力などしなくても完璧です。あなたに努力などという言葉は似合いません」 私は深く溜め息をついた。 「イルファス…私は完璧ではない。完璧であろうとはしているが…それでも、私はまだまだ未熟者だ。君も理想の自分に近付く為に、努力をしたらどうだろうか?」 「私は…サビィ様を愛しています。サビィ様は、こんな私に話し掛け優しくしてくれました。その時から、お慕いしています」 ダメだ…話しが通じない… どうすれば説得できるのか… 私が思案していると、イルファスの声色が冷たく憎しみが滲んだものに変わる。 「ブランカは、私が心からお慕いしているサビィ様にも色目を使いやがった!許せない…」 ブランカに目を向けたイルファスの瞳に、憎しみが宿りメラメラと燃えている。 ラフィがブランカを背中に隠す。 「ラフィ…どけ!」 「いや、どかない」 「邪魔なんだよ!」 イルファスがラフィに手を翳す。 彼女の手の平から、どす黒いモヤが現れる。 そのモヤがラフィとブランカを包んでいった。 「このモヤは、お前達をじわじわと苦しめる。すぐに呼吸もできなくなるはすだ!」 イルファスは勝ち誇った表情で言い放つ。 「イルファス!やめるんだ!」 私は駆け寄りイルファスの腕を掴んだ。 「サビィ様…見ていて下さい。あのモヤはあの2人の鼻や口から体内に入り込み、呼吸を止めます。もがき苦しみながら死ぬのです」 イルファスは歓喜の表情で私を見る。 「やめろ!」 私が叫んだ瞬間、2人を包んでいたどす黒いモヤがスッと消えていく。 「なんだと…」 イルファスの表情が驚愕へと変わる。 モヤが完全に消えると、ラフィがブランカを庇うように抱き締めていた。 「そんな…あのモヤを消すなんて…」 動揺するイルファスを目にしたラフィは、ブランカを支えながら、スッと立ち上がった。 「イルファス、もうやめるんだ。これ以上攻撃するなら、僕も黙っていられない。君を傷付けるような事はしたくないんだ」 「ラフィ…凄い自信だな。私に勝てると思っているのか?私には、あの方が付いている。今の私は無敵だ」 イルファスは、不敵に笑うと灰色の翼を羽ばたかせ空に舞い上がった。 「ドゥードゥル、グリーナー、グルーエンス!」 イルファスの呪文が響き渡る。 空を覆い尽くしている黒雲に光が走り、小さな雷鳴が聞こえてきた。 黒雲を走る光が徐々に大きくなる。 それに合わせるように、雷鳴も大きくなっていく。 次の瞬間、光が走り薄暗い景色に光が戻る。 同時に爆音が轟き思わず耳を塞いだ。 「雷か…」 天使の国に雷は存在しない。 少なくても、今まで見た事がなかった。 ふと、イルファスを見るとセレンツリーの方向を見て、手を動かしている。 (何をしている…) 首を傾げた時、稲光が走り雷鳴が響く。 ビリビリと地鳴りのような音も響いている。 「ねぇ、今セレンツリーの方に雷が落ちたんじゃない?」 ブランカが不安そうな表情で呟く。 「まさか…ラフィ、ブランカ!セレンツリーの林に行くぞ!」 私達は、ツリーハウスの無事を願いながら、セレンツリーの林に瞬間移動したのだった。
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