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イルファスの魂胆
「魔界は素晴らしい世界。言わば楽園。この世界は…」
「ちょっと待って。」
誇らしげに語るイルファスの言葉を、ラフィが遮る。
話の腰を折られたイルファスは、不機嫌そうにラフィを見た。
「何だ?」
「この世界は幻だよね?さっき岩を触ろうとしたら、僕の手は突き抜けてしまったよ」
「思ったより賢いな」
イルファスは馬鹿にするように、薄笑いを浮かべている。
「仕方ない…教えてやろう。察しの通り、この世界は幻だ。本来この愚かな天使の国を壊してから、この楽園を作り上げる予定だった」
「楽園…?これは魔界だよね?」
「ラフィ…私にとって、天使の国は愚かで忌々しい世界だ。サビィ様とこの世界から逃げる事ができたら、どんなに良いか…私は、そんな事ばかり考えていた…」
「私と逃げるだと…」
私は彼女の言葉に寒気を感じた。
「ええ、サビィ様。私とあなたで、この国を出て魔界という楽園で過ごす日々を考えておりました」
私を見ながら嬉々として語るイルファス。
その姿は常軌を逸していた。
「私が思い悩んでいる時に、あの方が現れ仰いました。私に力を貸してくれると…」
イルファスは、ウットリとしながら一点を見つめている。
「あの方って一体誰なんだい?」
ラフィが尋ねると、イルファスは再び薄笑いを浮かべた。
「あの方が、どなたなのかは詳しくは分からない。まだお会いした事はないからだ。でも、私の願いを叶えて下さると約束して下さった」
「君の願い?」
ラフィが怪訝な表情でイルファスを見つめる。
「ああ…私の願いは、ブランカに復讐する事!」
イルファスは憎々しげにブランカを見た。
ラフィがブランカを自分の背中に隠す。
「あの方は、私の復讐の手助けをして下さる。だから、その代わりにこの天使の国を譲ると約束した」
「なんだって!そんな勝手な約束…」
「あり得ないわ…」
ラフィとブランカは唖然としている。
「この天使の国は楽園へと変わるのだ。そして、私はサビィ様と共に生きる」
「イルファス。それは断ったはずだ」
私は彼女に強い眼差しを向ける。
「ウフフ…サビィ様、お忘れですか?私とあなたは一心同体です。サビィ様の血…気高く尊い味でした」
イルファスが、舌舐めずりをしながらニヤリと笑った。
その表情は薄気味悪く、私は全身が凍るように冷たくなった。
「え!それは…どういう意味なの?サビィの血を飲…んだ…の…?」
「イルファス…君は、まさか…」
ブランカとラフィが驚愕の表情を浮かべている。
イルファスは、勝ち誇ったように満面の笑みを浮かべた。
「私はサビィ様の血を飲んだ!私とサビィ様は、今後一心同体となるのだ!その為には、サビィ様にも私の血を飲んで頂く」
私は、自分の中で何かが沸々と湧き上がるのを感じた。
今まで感じた事のない感情だ。
抑えようとしても、後から後から湧き上がる。
気が付けば、両手がワナワナと震えていた。
「…け…るな…」
思わず声が出る。
「サビィ様、何ですか?」
イルファスが笑顔で私を見た。
「ふざけるな!先程から黙っていれば、勝手な事を並べ立てて…何が一心同体だ。私が君の血を口にするなど言語道断だ!」
思わず声を張り上げ、イルファスをジッと睨み付ける。
彼女は一瞬呆気に取られていたが、すぐさま笑顔に戻った。
「サビィ様に怒りなど似合いません。あなたは、いつでも冷静沈着でいなければいけません」
(怒り…この感情が怒り…)
私は初めての感情に戸惑いながら、大きく息を吐く。
「私を怒らせているのは君だ。イルファス…」
「確かに今は、私に怒りを感じているかもしれません。しかし、この楽園が幻ではなく実在したら…あなたは、私に感謝するでしょう」
「感謝などするものか…イルファス、この幻を消して天使の国に戻すのだ」
「嫌だ…と言ったら?」
「力ずくで戻すしかない」
「まぁ…サビィ様、そんな怖い顔して…そんな顔、あなたに似合いません。元に戻す事はできません。私は、あの方に託されたのです」
「託された…?一体何を?」
私が尋ねると、イルファスは嬉々とした表情で答えた。
「天使の国の破壊と、天使の抹殺です」
「何だと…」
「破壊と抹殺…」
「そんな…」
私達は絶句した。
イルファスが、そのような大それた事を考えていたとは…
「天使の国を破壊し天使を抹殺した後、あの方がいらっしゃるのです。そして、いよいよ楽園が作られる。今は幻の楽園が…いよいよ実現される…その為に、私はここを破壊し、サビィ様以外の全ての天使を消す」
イルファスの手には、いつの間にか真っ黒な剣が握られていた。
「そんな事…させないわ」
ブランカが髪を数本抜き、息を吹きかける。
すると、黄金色に輝く弓矢に変化した。
「この国を守らないとね」
続いてラフィが指を鳴らすと枝木が現れた。
「リラムーンの枝よ…僕に力を貸しておくれ」
ラフィが話し掛けると、その枝はたちまち不思議な形の剣へと変化した。
柄の部分は葉で覆われている。
そして、剣身は1本の刃から枝分かれしており、まさに木の枝のような不思議な形をしていた。
私は翼から羽を抜き、再び真っ白な剣に変化させた。
私達は、それぞれ剣や弓を構えイルファスに立ち向かい合うのだった。
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