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劣勢
イルファスは攻撃態勢を取る私達を見て、溜め息をついた。
「3人がかりか…いいだろう。でも、何度も言っているように、私はサビィ様とは闘いません」
私は彼女の言葉に眉根を寄せる。
「サビィ様と私は一心同体となる。ラフィとブランカを倒した後に、私の血を飲んで頂く。あなたを傷付けるなど…私の選択肢にはありません」
「私は、イルファスと一心同体になるつもりは毛頭ない!」
イルファスの血を口にするなど、想像しただけで背筋が冷たくなる。
「ウフフ…サビィ様…今は私を拒絶していますが、必ず受け入れます」
「なぜ、そう言い切れる?」
私はイルファスを非難するように睨む。
「ここが楽園になるからです!サビィ様以外の天使を滅し、天使の国を破壊後、素晴らしい楽園を創り上げると約束致しましょう!楽園を目にしたサビィ様は、私を受け入れたいと心から思うはずです!」
イルファスは自分の言葉に酔い、ウットリとしている。
「ちょっと待って」
ブランカの怒気を含んだ声が聞こえる。
彼女は、構えていた弓矢を下ろし俯いている。
表情は見えないが、弓矢を握る手は力が入り震えていた。
「なんだ?」
イルファスは、話の腰を折られ不愉快そうに尋ねた。
「そんな事…させないわ」
ブランカは顔を上げイルファスを睨み、再び弓矢を構えた。
「私はこの国を守りたい…破壊なんてさせない!それに、サビィは大切な仲間よ。あなたの好きにさせないわ」
「僕もこの国を守るよ。勿論、サビィも渡さないよ」
ラフィも剣を構え、イルファスをジッと見つめる。
「今の私に勝てると思っているのか?」
不敵に笑うイルファス。
「逆に問いたい。その自信の根拠は?」
尋ねながら私も剣を構える。
「サビィ様。私は、あの方に力を分けて頂いてるからです。以前の私とは違います。あの方のおかげで、私は素晴らしい力を手に入れたのです!」
「なるほどね…君の自信は、身も知らずの誰かに分けてもらった力…と言う訳なんだ。それは、聞き捨てならないね。僕達を甘くみないでほしいな」
ラフィは、言うが早いかイルファスに斬りかかる。
既の所で黒い剣が受け止める。
辺りに響く金属音。
イルファスがラフィを押し返す。
すぐさま、体勢を整えたラフィが再び斬りかかる。
その剣を避けたイルファスが、ラフィの肩口目掛け斬りつけた。
一瞬よろめいたラフィ。
容赦なく振り下ろされる剣。
「ラフィ!危ない!」
急いで駆け寄り、イルファスの攻撃を私の剣で受け止めた。
「サビィ、ありがとう。助かったよ」
「気にするな」
私は振り返りラフィの無事を確認した。
「美しい友情ですね」
イルファスの言葉に私は振り向いた。
気付けば彼女は剣を下ろし、私を見つめていた。
一瞬その瞳に寂しさが浮かび、スッと消えていく。
「そんな生ぬるいもの何の役に立ちませんし、信じられません。信じるべきものは己の力のみ…あの方が教えてくれました」
イルファスは、再び剣を構えラフィに斬りかかった。
彼はヒラリとかわしたが、イルファスはすぐさま体勢を整え再び襲いかかる。
ラフィの剣が受け止める。
交差する剣。
2人の視線がぶつかる。
ラフィが慢心の力で押し返し、イルファスがよろめいた。
その隙をラフィは見逃さず、彼女の肩を切り裂いた。
赤黒い血が噴き出し、イルファスは思わず片膝をついた。
「なかなかやるな…癒しの天使と名高いお前の事だから、脆弱だと思っていた」
「見くびっては困るな。僕だって、やる時はやるよ」
イルファスは斬られた肩を押さえ深く息を吐き、ニヤリと笑った。
「だが…これくらいの傷なら簡単に治る」
そう言って立ち上がったイルファスの傷は、既に塞がっていた。
「私をいくら傷付けても無駄だ。あの方のおかげで、これくらいの傷なら簡単に治癒する。だから、私には勝てない」
イルファスは不敵な笑みを浮かべている。
その時、突然稲妻が走り雷鳴が轟いた。
あまりの轟音に私達は驚き空を見上げる。
すると、地を這うような禍々しい声が聞こえてきた。
「イルファス!何を手間取っている。目的を思い出せ!」
またもや聞こえた声は、明らかに苛立っている。
ふとイルファスに視線を向けると、強張った表情で
空を見上げていた。
「イルファス…よく聞け。我の代わりを務めてくれると、お前に期待しているのだ。イルファス…お前ならできるだろう?」
その声からは苛立ちは消え、手のひらを返したように猫撫で声に変化している。
イルファスは、安堵の表情を浮かべ歓喜の声を上げた。
「勿論です!私は、あなたの手となり足となりましょう!必ずや、ご期待に応えてみせます。」
「それならば…我の期待に応えてくれるな?行け!イルファス!!」
吠えるような叫び声にイルファスは頷き、矢のようなスピードでブランカの元へ飛んだ。
「マズい!ブランカが危ない!」
ラフィは、剣を携えイルファスの後を追う。
私はイルファスを咎め、鼓舞した不気味な声の主を探すべく辺りや空を見渡したが、やはり姿は見えない。
私は苛立ちを覚えながら、ラフィとブランカへと視線を移した。
2人はイルファスと闘っている。
ブランカが一度に数10本の矢を放つ。
それを、全てかわすイルファス。
隙を突き、ラフィが剣を振るうも見事にかわしている。
2人の攻撃をかわすイルファスは、笑みを浮かべている。
誰が見ても、ラフィとブランカは劣勢である。
私は、急いで彼らの元に向かった。
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