18人が本棚に入れています
本棚に追加
届かぬ想い
どれくらいブランカを見つめていただろうか…
時間にすれば、ほんの数分だったかもしれない。
しかし、私にはとても長い時間に感じた。
胸に痛みを感じながらも、儚く美しいブランカをずっと見ていたいと思った。
切なさと愛しさが重なり合う表情。
ラフィだからこそ、彼女が魅せる表情…
(もし、彼女を守り怪我をしたのが私であったら…ブランカは、このような表情を魅せてくれるだろうか?)
私は、ゆるゆると頭を振る。
(いや…それはないだろう。私では無理だ…)
それならば…せめて、せめて…この美しいブランカを目に焼き付けよう。
ずっと、忘れる事がないように…
「さてと…」
ブランカが組んでいた手を解き私を見た。
「子供達の安全も神殿の無事も確認できたし…部屋に戻りましょうか?」
「あ…ああ、そうだな…」
私は慌てて目を逸らす。
ずっと見つめていた事を気取られたくなかったのだ。
(ブランカに気付かれなかっただろうか…)
その時、ふと巨木に預けて来たクルックの事を思い出した。
若干の気まずさを曖昧な笑顔で隠し、ブランカを見る。
「そうだ…クルック…クルックを迎えに行かねばならない。危険だから巨木に預けたのだ」
「まぁ…それは早く迎えに行ってあげて。サビィの事を待ってるはずよ」
「ああ…ブランカ、では失礼する」
「ええ。サビィ、またね」
ブランカが優しく笑いかけた。
「ああ…また…」
私は踵を返すと、巨木に向かって歩き出した。
胸に広がる痛みに気付かないふりをし、私を待つクルックの所へと向かった。
幸い、巨木周辺に被害はなかった。
私はホッと息を吐くと、巨木に向かって呼び掛ける。
「クルック!大丈夫か?私だ…サビィだ。迎えに来た」
「サビィ…サビィですのね!私は大丈夫ですわ!」
私は根本に走り寄り巨木を見上げた。
枝の間から、光に包まれたクルックの姿が見え隠れしている。
「今行く。そこで待っていろ」
私はふわりと舞い上がり、枝の間からクルックを救出した。
髪を1本抜き息を吹きかけ、針に変化させる。
それを光に刺すとパンッと弾け、クルックが飛び出してきた。
「サビィ!大丈夫ですか?怪我はないですか?私は心配で心配で…まぁ!サビィ…手を怪我してるじゃないですか!」
「クルック…落ち着け。これくらい大した怪我ではない」
「まぁ!何を仰るのですか?そんなにダラダラと血が流れてるではありませんか!手当が必要ですわ!」
クルックが、鞭を私の腕に巻き付けていく。
「これは?」
「止血ですわ。まだ血が止まっていないので、鞭で止血します。すぐ血は止まるはずです」
クルックは得意気に胸を張る。
「クルック。感謝する」
私が頭を下げると、クルックは更に胸を張ると私を見た。
「私がサビィを助けるのは当たり前の事ですわ!」
私は、その姿がおかしくクスクス笑った。
「サビィ?なぜ笑っていらしゃいますの?」
「いや…なんでもない。さて…部屋に戻るとしよう」
私はクルックの鞭を巻き付けたまま、自室へと戻って行った。
最初のコメントを投稿しよう!