止まらぬ出血

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止まらぬ出血

 私は自室に辿り着くなり、その場でへたり込んでしまった。 「サビィ!大丈夫ですか?」 クルックが心配そうに、顔を覗き込んでいる。 「ああ…大丈夫だ…衝撃的な事が続き、さすがに疲れた…」 「サビィ…顔が真っ青ですわ!ベッドに横になった方が良いですわ」 クルックが鞭を伸ばし、私の体中に巻き付ける。 そして、どうにかして私を移動させようと懸命に引っ張った。 「サビィ、なんとか立って下さい。私の力では、あなたを持ち上げられませんわ」 「あ…ああ…分かった…」 私はどうにか立ち上がったが、クラクラと目が回る感覚を覚えた。 (まずい…目眩だ…) その瞬間、目の前が真っ暗になり私はそのまま倒れ込んだ。 「キャー!サビィ!大丈夫ですか?」 「あ…ああ…」 私は、どうにか返事をした。 しかし、意識は朦朧としている。 「ちっとも大丈夫ではありませんわ!サビィ!しっかりして下さい!」 クルックの声が徐々に小さくなっていく。 「サビィ…ベッドに…行きま…す…わ……よ……」 私は返事もできず、意識を手放し闇の底へと沈んでいった。  気付けば、私は花畑の中にいた。 花達は楽しそうに、お喋りをしている。 「ねぇねぇ、見て!あの2人凄くお似合いよね」 「ええ!本当にお似合い…羨ましいわ〜」 「綺麗な2人…うっとりしちゃう…」 「本当!素敵よね〜」 私は辺りを見回す。 すると、仲睦まじいラフィとブランカの姿が目に入った。 2人は体を寄せ合い、お互いを見つめ幸せそうに微笑んでいる。 (幸せそうなブランカ…初めて見る表情だ…) 私は思わず両手を強く握りしめていた。 爪が手のひらに刺さり痛みが走る。 しかし、胸の痛みから比べたら他愛のないものだった。 目を逸らさねば…とも思うが、彼女の幸せそうな表情から逸らす事ができない。 (私には、あのような表情を見せる事はないだろう…) ラフィだからこそ、見せるブランカの表情… 握っていた手を開き、痛む胸を抑える。 「この胸の痛みは、いつか消えるのだろうか?」 思わず口から言葉が溢れる。 「サビィは、ブランカが好きなのね?」 足元から突然聞こえた声に、私は視線を落とした。 「サビィ…大丈夫?苦しくない?」 花達が心配そうに私を見上げている。 私は、しゃがみ込み花達の言葉に耳を傾けた。 「辛いなら私達が励ますわ!」 「ねぇ?私達、何をしたら良い?どうしたら、サビィは元気になるの?」 花達の優しい言葉に、思わず頬が緩む。 「その気持ちだけで充分だ。ありがとう」 その時、サワサワとそよ風が吹いた。 風に合わせ花達が揺れている。 「サビィ…サビィ…辛い時は、ここに来て…」 「私達は…サビィが大好き…」 「あなたは…優しい天使…私達は分かってる…」 「私達が、あなたを癒すわ…」 「歌?ダンス?サビィのお望みのまま…」 「あなたは1人じゃないわ…」 花達の歌うような優しい言葉に私の心は癒され、胸の痛みは薄れていった。 「ありがとう…」 「う…ん…」 私は、ゆっくりと目を開けた。 (ここは…どこだ…?私は花畑にいたはずだが…) 頭がぼんやりとしている。 しかし徐々に覚醒するにつれ、自分が自室にいる事に気付いた。 (ああ…あれは夢か…) 確か床に倒れ込んでしまったはずだ。 ゆっくりと起き上がり辺りを見回すと、なぜか私はベッドの上にいた。 ふと隣に目をやると、クルックがいびきをかきながら寝ている。 体に鞭が巻き付いている事に、ふと気付く。 どうやら、クルックがどうにかベッドに運んでくれたようだ。 「重かっただろう…」 私はクルックに手を伸ばしソッと撫でる。 「う…ううん…」 軽く身じろぎをしたかと思った瞬間、クルックは突然飛び起きた。 「まぁ!私…ウッカリ寝てしまいましたわ!サビィはどこですの?」 寝ぼけているのか、キョロキョロと辺りを見回している。 「私はここだ」 クルックが私を見上げ、数秒動きを止める。 「ああ!思い出しましたわ…私があなたをベッドに運びました」 「クルック…すまなかった。重かっただろう?」 「意外に大丈夫でしたわ。サビィ、あなたはもっと栄養を摂取して太るべきですわ!」 「善処する」 「本当ですか?」 「あぁ…」 私を運ぶのは一苦労だったはずだ。 栄養を摂取すべき…と言ったのは、彼女なりの気遣いに違いない。 「まぁ!サビィ…大変ですわ!」 クルックが、慌てた声で鞭を私の右腕に巻き付けてきた。 右腕に目を向けると、イルファスに付けられた傷から血が滴っていた。 (それほど深い傷ではなかったはずだが…出血が止まらない?) 「止血しないといけませんわ!」 クルックが巻き付けた鞭を締め上げる。 しかし、全く血が止まる気配はない。 止まるどころか、滴る血量は増えているようにも見えた。 「困りましたわ…全く止まりません…」 私は深く溜息をつく。 「これは…イルファスのせいかもしれない…」 「サビィ?今、何と仰いました?」 「イルファスが、私の血を口にしたのだ…」 「何ですって!今、とても悍ましい言葉を耳にしたような気がします。イルファスが、サビィの血を飲んだ…と」 「そうだ。クルック」 「キャー!何と悍ましい!大変ですわ!何とかしないといけませんわ!」 「落ち着け…クルック」 私は暫し考えた。 (ザキフェル様なら、この事態を解決できるかもしれない…) 「クルック。ザキフェル様に見て頂こうと思う」 「ザキフェル様…そうですわね!それが良いですわ!私も一緒に行きます。止血をしながら向いましょう」 私はクルックを連れ、天使長室へと向かった。
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