ラフィの想い

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ラフィの想い

 翌日、私は治療棟にあるラフィの病室を尋ねた。 扉は開いており、中を覗くとラフィが上半身を起こし窓から外を眺めていた。 「ラフィ…」 遠慮がちに声を掛けると、ラフィが笑顔で振り返った。 「サビィ!来てくれたんだね」 彼は嬉しそうに微笑んでいる。 私は中に入ると、タンブラーに注ぎ入れたマレンジュリテイーを渡した。 「マレンジュリテイーだ」 「ありがとう!サビィのマレンジュリテイーは美味しいからな〜実はさっき、凄く苦い薬を飲まされてね。まだ口の中に苦味が残ってるんだ。早速、頂くよ」 ラフィはタンブラーに口を付けると、一気にマレンジュリテイーを飲み干した。 「あ〜美味しかった!おかげで生き返ったよ。ありがとう、サビィ」 「いや、気にしなくても良い。それより…体調はどうだ?」 「見ての通り元気だよ。でもさ、ザキフェル様が念の為に2、3日静養するように…って。その間、あの苦い薬を飲まされるかと思うとゾッとするよ」 よほど薬が不味かったのか、ラフィは顔をしかめている。 「まぁ…あれほどの傷を負ったのだ。静養するに越した事はないだろう」 「それはそうだよね。仕方ないか」 ラフィは、ガックリと肩を落とした。 いつもと変わらない様子に私はホッとした。 「サビィ…ザキフェル様から聞いたよ。君の怪我の事や…悪魔の事」 気付けばラフィは、真剣な表情で私を見つめていた。 「そうか…イルファスが、悪魔に変容した可能性の話しも聞いたのか?」 「うん。聞いた。それに不思議な万華鏡を見た…」 「そうか…」 病室に、しばし沈黙の時が流れる。 私もラフィも、何を言葉にしていいのか分からない。 「天使長になる…という事は、天使の国を背負う事なんだよね…」 「ああ…そういう事になるな…」 「もしかしたら、また悪魔が攻めてくる可能性もあると思う…サビィは怖くない?」 ラフィの言葉に、悪魔へと変容したイルファスの姿が頭に浮かぶ。 あの時の悍ましさや恐怖が襲う。 私は、それらの感情に無理やり蓋をした。 「怖くない…と言えば嘘になる…あの時のイルファスの姿は、異様であったし悍ましかった…しかし、怖がっていたら前進できないだろう?」 「うん。僕も同じだよ。天使の国が破壊されるなんて考えた事もなかった…それに、ブランカが執拗に狙われるなんて…」 ラフィは俯き、両手をキツく握り締めている。 「僕は…彼女を…ブランカをずっと守っていきたい…」 「ラフィ…」 「ザキフェル様から天使長交代の話しがあった時は…それがどういう事なのか、ちゃんと理解していなかった。天使の国は平和だし、それが永遠に続くと思ってたしね」 「それは私も同じだ…まさか、この平和で美しい天使の国が、悪魔に破壊されるとは…予想だにしなかった…」 「うん…でも、今回の事で分かったんだ。想定外の事は、起こり得るんだってね…僕達は平和な世界に慣れすぎてしまった。過去に悪魔が攻めて来た事を知っている天使も少ない…このままじゃ、いけないってね…」 「確かに悪魔が攻めてくる可能性は、今後もあるだろう…その為に対策を講じる必要性もある」 「うん…ザキフェル様も同じ事を言っていたよ。」 ラフィは窓の外に目を向ける。 「天使の国は綺麗だよね。色とりどりの花や緑溢れる木々達…この国を守らないといけない…という気持ちは勿論ある。でも…僕は…それ以上にブランカを守っていきたい…その気持ちが強いんだ。生涯、彼女を側で命をかけて守っていく」 そう言って私を見たラフィの瞳には、決意が満ちていた。 私は小さく息を吐いた。 (ラフィには…敵わない…) 気付けば小さな笑いが漏れていた。 「それは…私への宣戦布告なのか?」 「そう取ってもらっても構わないよ」 ラフィの瞳は揺るがない。 その瞳からは、ブランカに寄せる想いが溢れている。 いつもの朗らかな彼からは、想像もできない姿だった。 その真っ直ぐな瞳から逃れる為に、私はさり気なく目を逸らす。 「ラフィ…私は、天使長室の隠し部屋に興味がある。そこには、見た事がないような物がたくさん揃っていた。ザキフェル様にお願いして、それらの物を調べさせて頂きたいと考えている」 「え?そうなんだ…」 突然、話題を変えた私を不思議そうに見るラフィ。 私は、そんな彼を横目に話しを続けた。 「これから、ザキフェル様やアシエル…そして私達も忙しくなるはずだ。隠し部屋にあった物は、用途不明の物もあるらしい。それを調べる事も、悪魔対策に繋がるかもしれない…私は、そのように考えている」 「うん…確かに、僕達もこれから忙しくなるとは思う…」 「私は、集中したいのだ。だから…ラフィ、ブランカを頼む」 「サビィ…」 「私は、君のように自分の命を投げ打ってまで、彼女を守れるか自信はない…それに、ブランカも君が側にいれば幸せだろう。ただ…約束して欲しい。決してブランカを悲しませるな…」 「うん。分かった…約束する」 「本当だな?君はエイミーと親しいようだが?」 私の問い掛けにラフィは目を見開いた。 「いや、それは…エイミーがアシエルの事で悩んでいて…話しを聞いていただけけで…」 「ラフィ…その話しはブランカ本人にする事だな。彼女は、その事で心を痛めていた。もし、ブランカを再び悲しませた時は…その時は…遠慮はしない」 「サビィ…」 「さて、少し長居し過ぎたようだ…私は、そろそろ帰るとする」 私が踵を返すとラフィが私に呼び掛けた。 「サビィ!」 振り返ると、ラフィが頭を下げていた。 「やめてくれ、ラフィ。私達は友達じゃないか。私は君達の幸せを心から願っている」 私の言葉に頭を上げるラフィ。 「うん…僕達は友達だよ。僕もサビィの幸せを心から願っているよ」 私は彼に笑顔で頷くと病室を後にした。
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