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代理の指揮で、事件係が主体となってウサ耳の源さんの資料を集めると、当てはまる点が出るわあるわで、恐らくこの人の犯行であることが予想された。私たち鑑識もこれまでに似たような事件現場で採取してきた足跡を確認すると、確かに同じものが複数の現場で見つかった。
ただーー。
「余罪は鑑識で出せるが、あいつがどこにいるかが分からない」
班長の言葉に諦めの感情が読み取れるが、落胆しているわけではない。
ウサ耳の源さん、どこに住んでいるかが分からない、いわゆる住所不定なのだ。
「それに、確たる証拠はまだ出ていないからなぁ……」
さらにいうと、私たちが集めた証拠は一連の窃盗事件の足跡が同じということであって、その靴を履いていた人が誰かということは特定していない。詰まるところ、巷でウサ耳の源さんとばったり会ったとしても、捕まえることができるまでの証拠がない。
「指紋でもあればいいんだがなぁ」
班長は代理が作った地図をデスクに置いたまま、席でふんぞり返って両手を頭の後ろに当てて天を仰いだ。
正に人の家に入ってるところを見れば現行犯だけど、管内には対象となりうる家が多すぎて、未来の被害現場を当てるのは至難の業だ。加えて夜中に警戒警らに当たるとしても、そもそもそんな時間に人が歩いていること自体が怪しいから、アンテナを立てて警戒している側から見れば私たちの動きはどうしても察知されやすく、気付かれればおそらく犯行に及ばずにウサギのように逃げて行く。
一日の中で一番静かな時間に、静かに仕事をやってのける。敵ながらよく考えたものだ。
「しかし源さんは音にビビって失敗も多いんだよ。だから、件数だけでいくとチャンスは多いんだけどなぁ……」
班長は地図に落とした赤と青の点を見ておよその範囲をマルで囲った。
「そうだ、早川」
「はい、なんでしょうか?」
「そういや、今日当直勤務だな?」
「そうです」
「夜中事件なかったら外川とこの辺流してみなよ」
ガトーというのは、私の前任である外川朋幸巡査部長のことだ。今は事件係に配属となっていて、私の兄弟子として同じ当直で指導を受けている頼れる先輩のことだ。元鑑識係員だけに、現場を見る目は見習う点がたくさんある。
「コイツを見つけたらとりあえず確保しよう。その時間にそこにいただけでもデータの一つだ……」
そう言って班長は以前捕まった時の顔写真を渡してくれた。何年か経ってはいるけど、そうそう変わってないだろう。私はその面構えを頭に焼き付けて、
「絶対捕まえてやる!」
と意気込みを見せたーー。
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