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「課長、ちょっと今、いいですか?」
立脇がどうしたのか、という顔を向けてくる。
「派遣契約の件で、ちょっと」
そうごまかすと、立脇は「あ、そうなんだ」と職場の方に歩いていった。
その場には、青生と紫藤だけが残った。
青生はまっすぐに紫藤を見上げた。
この会社に来た当初から感じている、紫藤に対する小さな謎。
それがなんなのかという引っかかりが、結果的には青生の背中を押した。
青生は紫藤を男性用の更衣室に促し、話を続けた。
「あの、さっきのお話ですけど、僕はセクハラだなんて思いませんでしたし、課長ともう一度するのは全然いいです」
率直に言うと、紫藤はかぁっと頬を赤くした。
「いや、あんな理由でするのは駄目だ」
「でも、ご迷惑をおかけしたのはそもそも僕ですし、課長に生涯引きずるような後悔の記憶を残すのも……」
「いや、本当にそれはもういいんだっ」
紫藤は口を手で覆い、もうその話はやめてくれという顔をしている。
……駄目か?
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