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この厄介な体質のため、オメガは歴史的に差別を受け続けてきたが、数年前にオメガの発情を抑える抑制剤の分野で画期的な新薬が出たことで、オメガの就業は飛躍的に改善されつつあると言われている。
だがそんな報道は、現場で働く者の感覚とはまた違う。
青生はこれまでも派遣で働いたことがあるが、前の二社では、青生がオメガだという理由で冷遇されたり差別を受けたりした。
そういうことがこの三社目の派遣先に来てからはなく、オメガの青生でも働きやすい職場だった。
期間の定めのない初めての長期派遣でもあり、青生はここにきて一安心していた。
なのに、結果的にはここも六ヶ月で終了になる。
派遣先の企業からも「もっと長く働いてもらうつもりだったのに申し訳ない」と言われたぐらいであり、本当に誰が悪いわけでもないが、やりきれない。
そんな不安な日々を送っていたから、発情の周期が狂ってしまったのだろう。
体が熱い。
この火照る体をどうしていいかわからず、青生は次第に追い詰められていく。
携帯端末さえあれば課に電話して、青生の鞄の中にある特効薬――ヒートを数分で抑えられる強い薬――を持ってきてもらうだけでよかったのだが、手元に携帯はない。
だから誰かが通りかかるのを待って、ドア越しに助けを求めようとしているのだが、誰もこない。もう三十分もだ。
こんなところに逃げ込まなければよかった?
いや、職場の人たちが大勢いる中でヒートを起こしたら騒ぎになる。
そんなことになったら、派遣会社にも知られて、問題を起こしやすいオメガと判断されて次の派遣先さえ紹介してもらえなくなるかもしれない。
そうなれば無職だ。
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