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「何を……!?」
右手を封じたところで、すかさず自分のネクタイも引き抜き、それで紫藤の左手と右手を縛った。
襟元で両手を縛った形になる。これで紫藤は手を使えない。
「こん……っ、な、なっ、何を……」
「課長を、ください」
「……は!?」
紫藤の目は点になっていた。
「き、君、い、今、君はおかしくなってるんだ。正常な判断が下せていないっ。わ、私はアルファだぞ。万一うなじを噛んだら取り返しが……っ」
その言い分は、もっともだった。
アルファが発情期中のオメガのうなじを噛めば「つがい」が成立する。
つがいは成立すればどちらかが死ぬまで解除できない人生の一大事だ。
青生はこの一年ほど、「マッチング」で婚活をしている。
マッチングとは国が運営するオメガ専用の婚活システムで、オメガとの結婚を希望する相手とデータのマッチングが行われ、会ってすぐ性交して相性を見るというものだ。
初回の性交はマッチングの管理する施設内で行われ、興奮したアルファが衝動的に噛んでしまう事故を防ぐため、オメガ側は必ずつがい防止用の首輪を着用するようになっている。
発情期にアルファと事に及ぶなら、首輪は必須だし、ないなら絶対しない。
それが青生に身についた感覚だったが、一時間ヒートしていた青生は、もはや普通ではなかった。
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