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01 課長はどうして告白を断ったのだろう
「好きです」
その告白の場に遭遇してしまった兎川青生は、とっさに給湯室に隠れた。
告白したのは今日辞める派遣社員の女性オメガ。
相手は男性アルファ――青生の所属する課の紫藤課長だった。
襟元まできっちりと締めたネクタイに、オールバックに整えられた髪。
二十九歳という異例の早さで課長に昇進、部内でも頭抜けて優秀だとささやかれている正真正銘のエリートアルファだ。
女性は紫藤の前で震えていた。
女性の身長は、百六十半ばの青生と同じぐらいで女性としては背の高い方だが、百八十以上ある紫藤の前ではとても小さく見える。
あの場に立つのに、どれほどの勇気がいっただろう。
息を呑んで見守る青生の視線の先で、彼女は続けた。
「これからも、会ってもらえませんか」
「すまないが、その気持ちには応えられない」
即答だった。
「あ、もしかして恋人が……?」
「いや、いないが」
「そっ……そうですか、すみません。私じゃ釣り合わないですよね」
「……」
「今まで、ありがとうございました」
彼女は頭を下げると、身を翻して事務室に戻っていった。
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