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子どもを連れて幸せそうに歩く家族を街中で見かけるだけで、最近は胸がチクチクするようになった。頭の中はいつも結婚のことばかりで、体も心も、どこか疲れている。
「結婚なんて、諦めた方がいいのかな……」
理想とする人が見つからない。無理に違う相手と結婚をするくらいなら、ずっと一人で生きていった方が楽なのかもしれない。
「ハァ……」
またため息が沙月の口から出ていく。すると、「お疲れ様」と声をかけられ、沙月の肩がびくりと跳ねる。
「柳田さん、お疲れ様です!」
コーヒーを二つ手に持った男性の名前は、柳田貴之。営業部での成績は毎回トップで、エースと密かに呼ばれている。
どこか優しそうなため目に、ブラウンの髪の毛、メガネをかけた貴之は、芸能人と言っても納得できてしまうほど華やかな顔立ちをしている。そのため、社内で女性社員がアタックしているのを見かけることも珍しくない。
営業部と沙月の所属している部署は、頻繁に飲み会など交流が多いため、沙月と高貫も挨拶をすることはたまにあった。しかし、二人きりで話すのは初めてである。
「こんな時間まで残業?何か手伝えることはある?あっ、コーヒーよかったら飲んで」
「い、いえ……もう少しで終わるので……。コーヒー、ありがとうございます。いただきます」
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