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翌日、放課後に生徒会室に行くと、事態はあまりにも静かで。
静かすぎて、昨日のことなんか夢だったんじゃないかと思った。
けれど、神くんが来なかった。
清宮さんとは視線を合わせることも出来なかった。
ミーティングを終え、逃げるように帰ろうとしていたところに計良くんが俺を呼び止めて。
「会長」と、何故か挑発的な瞳を向けてきた。
普段、見せたことのないその表情に戸惑うが。
次に紡いだ言葉で俺は頭が真っ白になった。
「神くんが交通事故に遭ったらしいですよ?」
「えっ?」
計良くんの瞳は変わらず挑発的なままだ。
何故そんな目で見詰められるのかわからなくて。
でも──。
そんなことを気にしている場合じゃなくって、目の前が真っ暗になった。
神くんが事故? そんな……そんなのって……。
「どこの病院⁉」
「渓仁会病院です」
何故、計良くんはそんなことを知っているんだろう?と、後になってわかるのだが、その時はそれどころじゃなかった。
計良くんに鍵を預けて生徒会室から急いで帰り支度をして病院に走った。
どうしてこんなに慌てているのか、自分でもわからなかった。
神くんにはずっと揶揄われて屈辱的な思いをしてきたはずなのに、心の底から心配で心配で仕方がなくて。
この気持ちはなんだろう。
病院に着くと、看護師詰所で神くんの病室を訊いてすぐに走り出す。病室に入っていくと、二人部屋の病室に神くんはいた。同居者は不在のようだ。
「神くん……」
そっとカーテンを開けると頭に包帯を巻いた神くんが眠っていた。
もっと重症なのかと思っていたけれど、包帯から血が滲み出していて痛々しくはあるが、幸いそれ以外に目立った外傷は見られず、一安心したら一気に脱力して。
俺はどうしてかな、神くんの冷たい手をぎゅっと握って、そっと持ち上げて自分の頬に擦り寄せていた。
そこで朧げに神くんが目を覚ました。
「会……長……?」
「神くん! 大丈夫!?」
神くんがゆっくり半身を起こして頭を押さえた。
どこか、切なげに伏し目がちに俺から視線を逸らす。それがなんだか寂しくて。どうしてそんなことを思うんだろうと自分でも不思議になる。
「罰が当たったんですね。会長に酷いことばかりしてきた罰が」
罰……?
そんなことない! そんなこと……。
罰なんかじゃない。酷いことだと最初は思った。
でも、この二ヶ月、神くんのことを考えない日なんて一日もなくって、それは負の感情ばかりじゃなくって──そう気付いてしまって。
でもそんなこと言える訳もなくって。
何も言えずにいると神くんが握りしめていた俺の手を口元に寄せて、そっと手の甲に口付けた。
「神くん……」
「会長、僕、本気で会長のことが好きなんです。揶揄ってなんかいません」
俺も、俺も神くんの事が……。
好き? なんだろうか、この感情は。
胸にわだかまるこの想いは。
好き?で合っているのかな?
好き?しか合っていないようで。
一度気付いてしまったら、そんな気持ちがどんどん溢れ出して来て、心の中で何かが堰を切ったように、今まで押し込めてきた感情が次々と胸を染め上げていった。
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