1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

 あいつのせいで。  そう呟きながら、私は頭を抱えた。そう、全てはあいつのせいだ。あいつさえいなければ。でも。本当は違う。騙されたのは結局、私が悪かったのだ。私が弱かったせいなのだ。そして、それを気づかせてくれた彼に感謝すべきなのかもしれない。それでも。あいつさえいなければ、こんなに苦しむことはなかったはずなのに。  私は数年前、投資がうまくいき、ものすごいお金を手に入れた。それからずっと裕福な生活を続けていた。親しい友人こそいなかったものの、私は一人でいることが好きだったから、一人でいることは別に寂しくもなんともなかった。結婚なんて論外だった。妻が欲しいとも思わないし、子どももいらない。むしろ、お金を自分のためだけに使える、そんな生活が幸せだった。  あいつと再会したのは、そんな生活を続けていたある日のことだった。公園でぼんやりしていると、彼の方から声をかけてきたのだ。彼は、幼馴染だった。それは本当に偶然の再会だった。大学が別々になって、それからまったく会わなくなってしまっていたのだ。  私と違い、彼はそんなに裕福な生活をしていないようだった。しかし、友人関係に裕福だとかそうでないだとか、そんなことは関係ない。私は久々の再会を喜び、一緒に食事をした。そして連絡先を交換し、その後もしばしば会うようになった。  楽しかったのは、最初のうちだけだった。次第に彼は、私のことを批判するようになった。こんな生活をするのはおかしい、このままで本当に大丈夫なのか、そんな生き方をしていてよいのか。最初のうちこそ、私はそれを、私の裕福さに対する彼の嫉妬なのだと考え、何をいわれても、なだめるように相手をしていたのだけれど、それも耐えられなくなってきた。そんなある時、彼は言ったのだ。  そんなに裕福なら、俺にお金を貸してくれ。50万円でいい。君なら、そのくらいのお金はすぐに出せるのだろう。  もちろん、私にとってその程度の金額は全く大したものではなかった。ただ、もう彼には愛想が尽きていた。彼のことが信じられなくなり、もしかすると何か私を騙そうとしているのではないかとさえ思った。だから私は、手切れ金のつもりで50万円を渡して、彼と絶交することにしたのだ。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!