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「明日はクリスマス・イブだね」
伊織はベッドで横になっている祖父に語りかけた。
「そうだね……」
祖父は少し眠そうな声で応えた。
そんな祖父に少し淋しさを覚えながら伊織は窓に視線を向けた。
空はどんよりと曇り今にも降り出しそうだ。今日は寒いので雨ではなくて雪になるかもしれない。
ここは病院の個室、元気だった祖父が突然倒れたのは半年前のことだ。それから祖父は入院している。
冬休みに入ってから彼女は毎日のように病院に通っていた。
「じぃじ、明日はクラスのクリスマスパーティーがあるから……」
「来られないんだね?」
今度は祖父の声が寂しげに聞こえた。かなり迷ったのだが、明日は小学生最後のクリスマスイブだ。別の中学に進学する友人も居る。
「ごめんね……」
「いいんだよ、楽しんでおいで」
祖父が優しく微笑んだ。
「ばぁばは来るからね」
伊織は祖父と病院で過ごす時間が嫌いではない。祖父は伊織が子供の頃からとても可愛がってくれた。両親が仕事で忙しかったので祖父が代わりに遊んでくれたし、色々なところへ連れて行ってくれた。公園、ショッピングモール、映画館。
小学生になってから伊織は友達と行動することが多くなり、祖父と過ごす時間が少なくなっていた。決して祖父が嫌いになったわけではないのだが、同世代の友人達と過ごす時間のほうが楽しかったのだ。祖父と一緒に出かけたければいつでも出かけられる、そう思っていた。だから、今やりたいことを、今楽しいことを優先してしまった。
だが、それは間違いだった。
伊織は祖父との時間を取り戻そうとするかのように病院へ通った。
「来年はじぃじも一緒に家でイブを過ごそうね」
「そうだね……」
祖父がまた微笑んだ。その顔を見て何故か伊織は悲しくなった。
程なくして祖父は眠りについた。伊織はそのまましばらく病室に居た。ドアの向こうから看護師さん達の声や足音が聞こえる。しかし、それらは別世界で起こっていることのように遠くに感じられた。
「あ、雪だ……」
伊織は小さく呟いた。空から雪が舞い降り始めた。
「じぃじ、寒くなるね」
寝ている祖父に話しかけた。
「それじゃあ、わたし帰るね。明後日、また来るから」
祖父の寝顔に挨拶をして伊織は病室を後にした。
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