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小学生最後のクリスマスイブを仲の良い友達と過ごせて伊織は満足していた。残念なのは、今日集まった六人の内、四人は別の中学に行ってしまうことだ。毎日のように学校で会うことが出来たが、来年からはそうそう会えない。でも、今日楽しかったことを明日、祖父に話すことは出来る。それは楽しみだ。
夜は家族でクリスマスパーティーだ。両親はあと二時間もすれば仕事から帰ってくるだろう。ケーキは父が、チキンは母が買ってくる。伊織は祖母とシチュー作りだ。彼女は自宅のドアを開けた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「え?」
祖母が迎えてくれると思っていたのに、奥から母が姿を現した。しかも全身黒ずくめだ。
「お母さん、なんで……? ばぁばは?」
嫌な予感がした。
「ばぁばは先に病院へ行ったわ。伊織、落ち着いて聞いてね」
「イヤだ……」
聞いちゃいけない、聞いたら戻れなくなる。
「伊織……」
母が困った顔をする。
「イヤッ、聞きたくない!」
伊織は家を飛び出そうとした。
逃げなきゃ。
何から逃げるのかわからない。でも、逃げないといけない。だって逃げないと捕まってしまうから。
「じぃじが待ってるよ」
母の言葉に思わず振り返る。母の頬に涙が伝っていた。
もう、ダメだ……
捕まった。悲しみに捕まった。受け入れたくない現実に捕まった。
伊織はその場所に泣き崩れた。
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