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「見返せると思う?」
力強く頷く蒼。
「とりあえずさ、」
蒼は両手でそっと私の眼鏡を外す。
「眼鏡をコンタクトに変えるだけでかなりのインパクトだよ」
「えっ……そう?」
私は昔からかなり視力が悪い。蒼に出会った中一の頃は当然眼鏡だった。眼鏡無しの顔なんて見せたことあったっけ?
「でも目にレンズ入れるの怖いんだもの」
「大丈夫だよ、慣れれば。俺も入れてるよ」
「うー……」
蒼はパッと立ち上がり、まだためらっている私の手を取った。
「よし、今から行こう」
「えっ」
「コンタクト。一週間あれば慣れるから」
「ちょ、ちょっと蒼――」
その日はコンタクトを買い、美容室に行き、来週のセットの予約もした。そしてデパートに寄り、ドレスに合うバッグとパンプスをじっくり選ぶ。少し高いから一瞬躊躇ったけれど。
(ううん、私は完全に馬鹿にされていたんだもの。見返すためにちょっと贅沢するくらい、自分への投資だと思えば)
とはいえボーナス払いにしなきゃな、なんて思いながら会計を頼もうとすると。
「お連れ様がもうお支払いなさってますよ」
「えっ」
振り向くと蒼は知らんふりして他のバッグを見ている。
「ねえ、蒼ったら! 私、自分で払うわ」
ワンピースを買ってもらったのに、さらにという訳にはいかない。少し語気を強めて蒼に詰め寄った。すると蒼は何かをポツリと呟いて。
「二十三年なんだ」
「……蒼?」
蒼はとても切ない目をして私を見ていた。
「長年の気持ちが籠ってるから。俺にプレゼントさせて」
なぜだか、私はそれ以上何も言えなかった。蒼の表情に、私の胸も苦しくなるほど締め付けられていたから。
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