15 水族館デート

2/2
前へ
/121ページ
次へ
「見返せると思う?」  力強く頷く蒼。 「とりあえずさ、」  蒼は両手でそっと私の眼鏡を外す。 「眼鏡をコンタクトに変えるだけでかなりのインパクトだよ」 「えっ……そう?」    私は昔からかなり視力が悪い。蒼に出会った中一の頃は当然眼鏡だった。眼鏡無しの顔なんて見せたことあったっけ? 「でも目にレンズ入れるの怖いんだもの」 「大丈夫だよ、慣れれば。俺も入れてるよ」 「うー……」  蒼はパッと立ち上がり、まだためらっている私の手を取った。 「よし、今から行こう」 「えっ」 「コンタクト。一週間あれば慣れるから」 「ちょ、ちょっと蒼――」  その日はコンタクトを買い、美容室に行き、来週のセットの予約もした。そしてデパートに寄り、ドレスに合うバッグとパンプスをじっくり選ぶ。少し高いから一瞬躊躇ったけれど。 (ううん、私は完全に馬鹿にされていたんだもの。見返すためにちょっと贅沢するくらい、自分への投資だと思えば)  とはいえボーナス払いにしなきゃな、なんて思いながら会計を頼もうとすると。 「お連れ様がもうお支払いなさってますよ」 「えっ」  振り向くと蒼は知らんふりして他のバッグを見ている。 「ねえ、蒼ったら! 私、自分で払うわ」  ワンピースを買ってもらったのに、さらにという訳にはいかない。少し語気を強めて蒼に詰め寄った。すると蒼は何かをポツリと呟いて。 「二十三年なんだ」 「……蒼?」  蒼はとても切ない目をして私を見ていた。 「長年の気持ちが籠ってるから。俺にプレゼントさせて」  なぜだか、私はそれ以上何も言えなかった。蒼の表情に、私の胸も苦しくなるほど締め付けられていたから。    
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3000人が本棚に入れています
本棚に追加