17 過去とさよなら

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 急に姿を見せた蒼は、私の肩を軽く抱いて川上琴美を睨みつけた。  今日の彼は仕立てのいい高級なスーツを着ていて、髪もキチンと整えている。形のいい眉と切れ長の瞳が美しく、しかもここにいる誰よりも背が高くて素敵だ。  周りの女性客もウットリと見つめているし、『誰? 芸能人?』と話している人もいる。 「ごめん、外で待ってたんだけど遅いから迎えに来てしまったよ」  川上琴美に見せた顔とは真逆の、蕩けるような甘い笑顔を私に向ける。思わず私の顔が熱くなってしまうくらい。 「いいのよ、ありがとう」  まだ蒼は私の肩を抱いたままだ。今までで一番近い距離にドキドキが止まらない。 「み、南野さん? それ、誰?」  語尾を伸ばすのも忘れて川上琴美が尋ねてきた。聞いてどうするつもりなのか。 「咲桜の彼氏ですが何か?」 「嘘っ」 「さ、咲桜、どういうことだよ? もう新しい男ができたのか?」  亮太が声を上げた。私にもう彼氏がいるなんて全く予想外の出来事だったみたいだ。 「咲桜って呼ぶな」  蒼の微かに怒気を含んだ低い声が響く。亮太は身体をビクッとさせて黙り込んだ。 「彼女は俺の大切な人だ。軽々しく呼び捨てにされたくない」  行くぞ、と蒼が私の手を握る。大きくて温かい手に私は安心して微笑み、一緒に歩き出した。  後ろのほうで人々がざわめいている。でも気にしない。私はこの瞬間にもう亮太との過去は捨て去ったのだから。
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