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18 亮太視点①
南野咲桜は同期の中でも地味なほうで、飲み会でもいるかいないかわからないくらいの子だった。
分厚い眼鏡を掛けているからか、同期の男たちがあの子がいいこの子がいいと噂話をする時にも全く名前は挙がらなかった。
やがて女子たちが次々に結婚して退職し、残っているのが咲桜だけになった頃。俺はふと、彼女が眼鏡を外した顔を見た。曇ったレンズを拭くために眼鏡を取っていたのだ。
すると予想外に綺麗な顔が現れた。これなら付き合ってもいいかも、そう思って話しかけた、それがきっかけ。そこから仲良くなり交際をスタートさせた。
咲桜はいい子だった。料理も上手いし家で快適に過ごせる。外でデートするのって、最初の頃は楽しいけどだんだんと面倒になるものだ。
付き合って四年も経つと平日は同僚や先輩と飲みに行き、土日はどちらかの家でゆっくりするのが当たり前になった。
年に一回だけ、旅行に連れていけばそれで喜んでくれる。俺は今の生活に満足していたし変えるつもりもなかった。
なのに去年くらいからだろうか、咲桜が結婚を仄めかすようになったのは。
三十になる前にしたいな、と時々呟くように言う。
正直、俺は結婚なんて興味がない。大きな責任を負いたくないし、妻一人に縛られて浮気もできないなんてごめんだ。俺の稼いだ金は自分のために使いたいし。
田舎の親にもせっつかれてはいるが、あと四、五年は自由の身でいたい。だから咲桜の結婚願望をのらりくらりと躱しながら過ごしていた。
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