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(嘘だろ……? あれが咲桜……?)
レイトン雅ホテルの庭園チャペルで咲桜を見かけた時、俺は目を疑った。
まず眼鏡を掛けていないし、少し茶色くした髪は綺麗にセットされている。ドレスは上品なのに色っぽく、大人の魅力を存分に見せつけるものだ。
これまでにも結婚式に出席する咲桜を見てきたけれど、こんなに綺麗だと思ったことはない。
「亮太。南野、別人みたいだな」
出席者の同期が小声でこっそり耳打ちしてきた。
「あ、ああ」
「お前に振られて落ち込んでるだろうと思ってたけど、逆に吹っ切れたのかなあ。すげえ綺麗じゃん。お前、惜しいことしたんじゃないの」
「いや、そんな……」
(ずっと嫌がっていたのに、まさかコンタクトに変えるなんて。眼鏡を外した咲桜の顔を知ってるのは俺だけだったのに)
結婚式の最中もなんだか落ち着かない。横目で咲桜のことをチラチラと見てしまう。咲桜は決してこちらを見ようとしなかったけれど。
式が終わり、披露宴の会場へと移動する。そこでしばらく待ち時間があるから、咲桜と話してみようと思った。俺と別れたことでこんなに自分を磨こうと思ったのなら……もしかして話しかけたら喜んでくれるんじゃないかと思ったのだ。
「亮太、どこ行くんだよ」
「ああ、ちょっと」
同期の視線を感じながら声を掛けた。
「久しぶり……咲桜」
すると振り向いた咲桜はひどく冷たい声でどうも、と言った。そして俺の後ろにいる同期たちに気がついたのか、彼らに笑顔を向けた。凄く綺麗な笑顔を。
「なんか、綺麗になったな、咲桜」
俺が声を掛けるとすぐに笑顔は消えた。
「そう? 普通よ」
「眼鏡掛けてないし……雰囲気が柔らかくなった、というか……」
「ストレスが無くなったからかもね」
やはり冷たい声でサラリと言われ、俺のことだと感じて言葉に詰まる。
「もうあなたと話すことはないから。じゃあ」
そう言って咲桜はくるりと背中を向けるとどこかへ行ってしまった。
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