─第一章─初めまして、俺のハニーチョコレート

9/13
前へ
/66ページ
次へ
 白を基調とした煌びやかな部屋。細やかな装飾が目立つここは、広い王城内でも確か端の方の建物の一室、だったはず。  窓からの景色を見るに、三階か四階程度。二度目の記憶を呼び起こしてもその程度だった気がする。  俺は件の助けが来た際、近寄ってくる武装した大人の人間達、それも久しぶりに見る大勢の人間に取り乱し、咄嗟に魔法を使おうとして魔力を練ったら首輪で跳ね返って自爆した。……正直、恥ずかしいことこの上ないが、無意識だったのだから仕方がないだろう。  目が覚めたら、白く肌触りのいい天蓋ベッドの上だった。  魔法を使おうとしてから心做しか余計に酷くなった首輪の反発に身体を蝕まれながら、俺は二度目の人生の記憶を呼び起こして一人、これからどうしようかと回らない頭で考えていた。  そうして暫く。それ程待つ事無く、ちょび髭を蓄えた腰の低い中年と、数人の騎士が部屋を訪れた。  首輪の解除をすると青い顔をしながらもにこやかに近寄ってくる人間に対して俺は────…… 「来るな……っ!!」  ────なんて、それはもう盛大に威嚇してしまった。  フーフー息を荒げて歯を剥き出し、耳を怒らせしっぽを膨らませ、これでもかというくらい威嚇してしまった。……ちなみにその人間は、咄嗟に前へ出た騎士たちの後ろで、土色に変わった顔で転がるようにして部屋を出ていった。  あ、やっちまった……と思った。  けど、その後冷静になって考えてみても、また主登録でもされて好き放題されるかもしれない、なんて事を考えてしまえばもうダメで。たとえ今、首輪のない平常時だったとしても俺は牙を剥いてしまっただろうな、と芽生えた罪悪感に蓋をした。  俺としては人間への恐怖心を取り除けずとも落ち着かせるべく、暫く彼らとの接触を断ちたかった。しかし、人間から受けた外傷や心の傷を癒そうにも、まずはこの首輪をどうにかしなければならない。  だが、俺は二度目のありがたーい記憶のお陰で、幸か不幸かまだ自分にはしばらくの猶予がある事を知っていた。だからこそ、残念な事に『なにも今じゃなくたっていいじゃん』なんて安易に妥協できてしまうのだ。  主登録は切られたようだし、魔法さえ使わなければ少なくとも二度目の人生よりも長く生きられるはずだしな、なんて。  なんせ、二度目の人生では何も知らずに強力な首輪をつけられたまま魔法を使いまくって、その結果死んだのだ。首輪を『今』絶対に外さなければいけないわけじゃないと理解してしまえばもう無理。楽になる事よりも現状が悪化するかもしれない恐怖心がある限り、俺はこれ以上首輪へ触られるのに耐えられそうになかった。  結局のところ、今の俺には無理な話なのだ。  本当は苦しくて痛い。早いとこ人間に首輪を解いてもらった方が楽なのは分かってるのに、俺としてはまずその人間と距離を置きたいのだ。  この矛盾、どうしてくれよう。  どうしようも無いよなぁ……威嚇しちゃうのは本能みたいだし。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

168人が本棚に入れています
本棚に追加