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────だから。
俺は人間相手に冷静になれなかった。
「殿下……!」
「動くな! それ以上近付いたらこいつの首を掻っ切る!」
視界の中、チョコレート色のサラサラとした髪が揺れた。
その日、髭を蓄えた中年が去った後。俺があの少女とその親の貴族から解放されたであろう瞬間に見た、金色の瞳の少年がこの部屋を訪れた。
しかし、少年は何処か上の空で、俺が止まれと言っても足を止めることはなかった。
子供が近付くたび、うるさいくらいに心臓が暴れ、耳鳴りが増す。
俺は訳も分からないままその少年を捕まえ、なにかされる前に爪を出して首に突き付けて、近寄ってこようとする騎士達に牙を向いた。
『これ以上人間に好きにさせるな』と、絶えず訴えてくる聖獣としての本能に引っ張られるがまま、俺は気付けば無意識にも苦痛で掠れた声を吐き出していた。
「おれは、聖獣だ……っ、幼体だろうと弱ってようと、お前ら人間が俺の首を刎ねる前にコイツの首を切り裂く事くら────」
ごぽっ──、
子供の首元へ固定している手を離すわけにもいかず、何にも抑えられないままにせり上がってきたものを吐き出せば────
────それは真っ赤な血だった。
なん……で、おれ、魔法なんか使ってな……
ああ、そっか。何でかなんて分からないけど、そうだった。
二度目の時も、確かこの後────
「っ、……ゴホッ、ヒュ……はっ、……は」
俺が興奮すればするほど苦しくなって、余計に咳が出ては視界に映る景色に赤色の染みが増え、目の前は眩んでいく。
どうしよう、どうしようどうしよう、せっかく前と変わったのに、どうすれば……
とにかく、今は多分この興奮をどうにかしなければいけないのだろう事は、漠然と理解していた。
……けど、どうやって落ちつければ良いんだよこんなの。
俺は十八年間人間として生きてきた。こんな、強い本能の抑え方なんて知らないし、二度目の人生では抑えようだなんて考えもしなかったのに。
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