─第一章─初めまして、俺のハニーチョコレート

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 ────だから。  俺は人間相手に冷静になれなかった。 「殿下……!」 「動くな! それ以上近付いたらこいつの首を掻っ切る!」  視界の中、チョコレート色のサラサラとした髪が揺れた。  その日、髭を蓄えた中年が去った後。俺があの少女とその親の貴族から解放されたであろう瞬間に見た、金色の瞳の少年がこの部屋を訪れた。  しかし、少年は何処か上の空で、俺が止まれと言っても足を止めることはなかった。  子供が近付くたび、うるさいくらいに心臓が暴れ、耳鳴りが増す。  俺は訳も分からないままその少年(げんいん)を捕まえ、なにかされる前に爪を出して首に突き付けて、近寄ってこようとする騎士達に牙を向いた。 『これ以上人間に好きにさせるな』と、絶えず訴えてくる聖獣としての本能に引っ張られるがまま、俺は気付けば無意識にも苦痛で掠れた声を吐き出していた。 「おれは、聖獣だ……っ、幼体だろうと弱ってようと、お前ら人間が俺の首を刎ねる前にコイツの首を切り裂く事くら────」  ごぽっ──、  子供の首元へ固定している手を離すわけにもいかず、何にも抑えられないままにせり上がってきたものを吐き出せば────  ────それは真っ赤な血だった。  なん……で、おれ、魔法なんか使ってな……  ああ、そっか。何でかなんて分からないけど、そうだった。  二度目の時も、確かこの後──── 「っ、……ゴホッ、ヒュ……はっ、……は」  俺が興奮すればするほど苦しくなって、余計に咳が出ては視界に映る景色に赤色の染みが増え、目の前は眩んでいく。  どうしよう、どうしようどうしよう、せっかく前と変わったのに、どうすれば……  とにかく、今は多分この興奮をどうにかしなければいけないのだろう事は、漠然と理解していた。  ……けど、どうやって落ちつければ良いんだよこんなの。  俺は十八年間人間として生きてきた。こんな、強い本能の抑え方なんて知らないし、二度目の人生では抑えようだなんて考えもしなかったのに。
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