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「殿下、一度引き上げましょう」
「っ……だが」
「出直すだけです」
「…………」
「我々がここに居る限り、聖獣様は魔法を使い続けてしまいます。そして貴方にも、治療が必要です」
「…………わかった」
────ああ……あの子が行っちゃう。
なんて、心の中で呟いてから一人首を傾げる。
早くどっか行けって、一人にしてくれって、思ってたくせに。その為にこうして苦しい思いもしてるくせに。
おかしいな。あのいつまでも優しい蜂蜜色の瞳のせいかな。
それとも、チョコレート色の甘そうな髪色のせいか。
俺、チョコ好きだったもんなー。
なんて。
はは……それは多分、流石に関係ねえや。
「────聖獣様、また来ます」
甘く優しい金の瞳に、ことさら真剣な色を乗せてハッキリとそう言った子供。
気付けば俺は『また来るんだ』なんて、憂鬱かあるいは期待か、自分でも判断に困るような言葉を心の中で呟いていた。
騎士たちが子供を連れて居なくなって、氷の魔法を解くと、どっと眠気が押し寄せた。
俺は張り付いていた壁を伝い、かつては割って逃げ出した出窓に登る。壁側の枠に持たれて窓の外、眼下に見える庭園を眺めれば、子供の瞳を彷彿とさせる鮮やかな黄色の花が咲き乱れていた。
はは……子供の癖に、腹立つくらい華やかな顔だったなぁ。
今日は色々あった。
助けに来たはずの子供や騎士に、髭の中年に威嚇して、今度は部屋に来た子供を傷付けた。
……いや、俺威嚇しかしてないじゃん。
なんて後になって、何やってんだよ俺、って反省会をする事になるのはもう少しあとの話。
────でも、これが俺とこいつの出会いだった。
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