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なんということでしょう。どうやらこの体、人間が目の前に現れると問答無用で威嚇モードに入ってしまうらしい。
何度威嚇されても根気よく食事を届けにくる少年。そして、何度も謝ろうと思い直すのに少年を目の前にすると牙を剥いてしっぽをブワッと膨らませ、挙句の果てにフーッ!と声をあげる俺……の、体。
めちゃめちゃに最悪だった。
そりゃ、初対面の時は俺だって人間に酷い目にあったすぐ後だったし……今思えば精神もかなり獣の方に引っ張られてたんだってわかるから、あれは仕方なかったのかもしれないって納得できるけど。
その後、ひとりで沢山考えて冷静になった俺は、少なくともあの子供に対する認識は改めていた。
なのに、騎士や使用人に会った時は仕方ないにしろ、あの子に会った時でさえ、気付いた時にはもう暴言が口からまろびでた後で、その現象に何度も茫然としてしまった。
それからは人間としての俺の感情と聖獣としての本能のギャップに翻弄されて、四苦八苦した日々を送った。
そんな中、絶えず俺の耳に入ってきたのは────…
『殿下がまた貴族に目をつけられた平民の女性を助けたんですって!』
『ねえ貴女、聞いた?昨日第二皇子が新人いびりにあっていた平民の騎士を助けたらしいわよ!』
『ちょっと聞いてよ!さっき殿下が『通常訓練に加え、見習い騎士に個別指導をするとは……卿はさぞかし技術と体力が豊富らしい。是非、僕と一試合』なーんて、貴族に模擬戦持ちかけて、相手の貴族に尻もちを着かせて負かしたんですって! あの騎士、悪い噂ばかりだったもの。いい気味よね』
…────なんていう、窓を開ければ1階から風に乗って届く、女性の使用人達の噂話。
聞けば聞くほどあの子はいい子で……それと同時に、俺の脳内反省会では耳としっぽを生やした何人もの自分が頭を抱えたり、土下座をしたり、ヤバいのだとしっぽを掴んで振り回して怒っていたりと。
それはもう……にゃあにゃあ、にゃあにゃあと、カオスな事になっていった。
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